(667字。目安の読了時間:2分) 門前何とはなく人の徃来繁し。 猶病床に在り。 書を松莚子に寄す。 月明前夜の如し。 十一月十七日。 雨ふる。 午前五来素川氏来訪せらる。 雑誌大観に寄稿せよとのことなり。 午後より座右のものを取片づけ居宅引払の凖備をなす。 夕刻唖※湖山の二子来る。 唖※子湖山子の周旋にて毎夕新聞社に入りしといふ。 花月はいよ/\十二月かぎりにて廃刊と決...
(642字。目安の読了時間:2分) この書近世仏蘭西抒情詩家の随筆中、余の最も愛読して措かざるものなり。 十一月六日。 雨ふる。 明治史要武江年表を見る。 十一月七日。 ※天。 心倦みつかれて草稾をつくる気力なし。 十一月八日。 午後三十間堀の春日に徃き延園を招ぎ清元落人をさらふ。 十一月九日。 明治初年の風俗流行の事を窺知らむとて諸藝新聞を読む。 十一月十日。 浜町河...
(661字。目安の読了時間:2分) 午後南明倶楽部古本売立会に赴く。 姿記評林購ひたしと思ひしが五拾円といふ高価に辟易して止む。 帰途風吹出でゝ俄に寒し。 家に帰り案頭の寒暑計を見るに華氏六十度なり。 十月廿六日。 安田平安居浜野茂の二氏に招がれて三十間堀の蜂龍に飲む。 この日寒気厳冬の如し。 綿入小袖を着る。 十月廿七日。 雨。 清元会に徃く。 久振にて菊五郎に逢ふ。 ...
(650字。目安の読了時間:2分) 新冨町の妓両三人を携へて新冨座を見る。 十月十五日。 築地けいこの帰途春日に立寄り三笑庵に赴く。 服部歌舟子に招がれしなり。 席上始めて市川三升に逢ふ。 その面立何となく泉鏡花氏に似たり。 此日雨。 十月十六日。 雨歇まず。 油絵師有元馨寧といふ人馬塲孤蝶氏の紹介状を示して面会を請はる。 画会を催す由なり。 燈下禾原先先生渡洋日誌を写す...
(658字。目安の読了時間:2分) 唖々子暴飲泥酔例によつて例の如し。 この夜寿美子を招ぎしが来らず。 興味忽索然たり。 寿美子さして絶世の美人といふほどにはあらず、されど眉濃く黒目勝の眼ぱつちりとしたるさま、何となくイスパニヤの女を思出さしむる顔立なり。 予この頃何事につけても再び日本を去りたき思ひ禁ずべからず。 同じく病みて路傍に死するならば、南欧の都市をさまよひ地中海のほとりの...
(652字。目安の読了時間:2分) 新橋妓史をつくらむとて其資料を閲読す。 堀口氏詩集月光とピヱロの序を草す。 九月廿五日。 晴。 唖※子来訪。 夜座右の火鉢にて林檎を煮る。 電燈明滅すること数次なり。 九月廿六日。 晴。 葉※頭の種を摘む。 萩の花散りつくしぬ。 九月廿七日。 秋雨。 梅吉宅けいこの帰り、築地の桜木に立寄り、新富町の妓両三名を招ぎ哥沢節をさらふ。 ...
(634字。目安の読了時間:2分) 花月第六号前半の編輯を終る。 九月十日。 ※下市ヶ谷辺散歩。 八幡宮の岡に登る。 秋風颯然として面を撲つ。 夕陽燦然たり。 夜外祖父毅堂先生が親燈余影をよむ。 火鉢にて辣薤を煮る。 秋涼漸く自炊によし。 九月十二日。 萩さき乱れ野菊また花開く。 九月十四日。 早朝清元けいこの帰途、三十間堀春日に立寄り、薗八節さらはむとて老妓延園を招ぎ...
(624字。目安の読了時間:2分) 午前松莚子を訪ひ、三才社に立寄りて帰る。 八月廿五日。 八重次来る。 唖※子亦来る。 夜八重次を送りて四谷に至り、別れて帰る。 八月廿六日。 久しく雨なし。 萩枯れむとす。 八月廿七日。 おかめ笹続稿執筆。 夜ミユツセの詩をよみて眠る。 唖唖子復び病めりといふ。 八月廿八日。 午後三菱銀行に赴く。 驟雨沛然たり。 家に帰り見るに...
(677字。目安の読了時間:2分) 昨日立秋となりしより満目の風物一として秋意を帯びざるはなし。 八重次病あり。 入院の由書信あり。 八月十二日。 女郎花ひらく。 執筆半日。 八月十三日。 春陽堂荷風全集第二巻に当てんがため、あめりか物語ふらんす物語二書の校訂を催促すること頻なり。 此日たま/\これ等の旧著を把つて閲読加朱せむとするに、当年の遊跡歴歴として眼前に浮び感慨禁ずべか...
(647字。目安の読了時間:2分) 八月朔。 連日の炎暑に疲労を覚ること甚し。 夜九時頃微雨あり涼風頓に生ず。 喜んで筆を把らむとするに蚊軍雨に追はれ家の中に乱入す。 一枚をも書き得ずして已む。 八月三日。 唖※子病むとの報あり。 八月五日。 再び疑雨集をよむ。 驟雨あり。 涼味襲ふが如し。 八月六日。 暴風の兆あり。 裏庭の雁来紅に竹を立てゝ支ふ。 萩咲き出でたり...