(419字。目安の読了時間:1分) 父は熱心に昔の田舍の遊び事や休日の慣例などを復活させることを主張して、凡そこの問題を論じた古今の書物に廣く通じてゐます。實際、父の愛讀書と云へば、少くとも二世紀以前に名を賣つた人たちのものですね。そして父に云はせると、その頃の人の方が、その後に出て來た人達よりも眞にイギリス人らしく物を書いたり考へたりしたのださうです。で、時には愚痴のやうに、もう二三世紀早く...
(359字。目安の読了時間:1分) わたしの父と云ふのは、よろしいですか、頑固な昔者でしてね、古風なイギリスぶりの饗應が自慢なのです。父ほど純粹にイギリス田舍紳士の型を保つてゐる人間は今時珍しいでせう。今日財産でもある人達はロンドンで過すことが多く、流行は盛に田舍に流れ込んで來るのですから、昔の田園生活のあのぐんと特色のあるところはもうあらまし研ぎ減らされて了つてゐますよ。ところが父は若い頃か...
(355字。目安の読了時間:1分) 聖フランシス樣、聖ベネディクト樣、 この家を惡しき者共からお守り下さい。 夢魔と、あのロビン殿と呼ばれる 物の怪からお守り下さい。 惡靈共が襲ひ入りませぬやぅぅ、 妖精や鼬鼠、鼠、狸などの入りませぬやぅぅ、 夕の鐘の鳴る時から 翌朝までお守り下さい。 カートライト 皓々と月照る夜であつた、けれど寒さは嚴しかつた。 わたし達の馬車は凍てつ...
(604字。目安の読了時間:2分) 名顕四方揚。 改故重乗禄。 昇高福自昌。 是れ御籤の文言なり。 余何ぞ声名の四方に揚ることを望まむや。 唯故きを改めて重て禄に乗ずるの語、頗意味深長なるを思ふ。 古きものは宜しく改むべきなり。 冀くはこの大吉一変して凶に返ることなかれ。 十二月廿九日。 今まで牛込区に在りし戸籍を京橋区に移さむとて、午後神楽阪上なる区役所に赴きしが、年末にて...
(652字。目安の読了時間:2分) 十二月廿二日。 築地二丁目路地裏の家漸く空きたる由。 竹田屋人足を指揮して、家具書筐を運送す。 曇りて寒き日なり。 午後病を冒して築地の家に徃き、家具を排置す、日暮れて後桜木にて晩飯を食し、妓八重福を伴ひ旅亭に帰る。 此妓無毛美開、閨中欷歔すること頗妙。 十二月廿三日。 雪花紛々たり。 妓と共に旅亭の風呂に入るに湯の中に柚浮びたり。 転宅の...
(658字。目安の読了時間:2分) 枕上石亭画談を読む。 十二月十六日。 旅館に在り無聊甚し。 午後築地桜木に至り櫓下の妓八重福を招ぎ、置炬燵に午夢を貪る。 十二月十七日。 朝の中築地二丁目引越先の家に至り、立退明渡の談判をなす。 実は十五日中に引払ふべき筈なりしになか/\其の様子なき故、余自身にて談判に出かけしなり。 然るに其の家の女主人は曾て新橋玉川家の抱末若といひしものにて...
(697字。目安の読了時間:2分) 両三日中に買宅の主人引越し来る由なるに、わが方にては築地二丁目の新宅いまだ明渡しの運びに至らず。 いろ/\手ちがひのため一時身を置く処もなき始末となれり。 此夜桜木にて櫓下の妓両三名を招ぎ、梅吉納会の下ざらひをなす。 十二月十日。 久米君より桜木方へ電話かゝりて、明十一日梅吉納会に語るべき明烏さらひたしとの事なり。 夕暮花月に赴き、主人および久米、...
(681字。目安の読了時間:2分) …也 古道具 総計金弐万六千弐百六拾四円弐拾弐銭也 支出金高 一金弐千五百円也 築地引越先家屋買入 一金四百六拾円也 建物会社手数料 総計金弐千九百六拾円也 差引残金 金弐万参千参百〇四円弐拾弐銭也 十二月六日。 正午病を冒して三菱銀行に徃き、梅吉宅に立寄り、桜木にて午餉をなし、夕刻家に帰る...
(765字。目安の読了時間:2分) 体温平生に復したれど用心して起き出でず。 八重次来りて前日の如く荷づくりをなす。 春陽堂店員来り、全集第二巻の原稿を携へ去る。 十二月二日。 小雨降出して菊花はしほれ、楓は大方散り尽したり。 病床を出で座右の文房具几案を取片付く。 此の度移転の事につきては唖※子兼てよりの約束もあり、来つて助力すべき筈なるに、雑誌花月廃刊の後、残務を放棄して顧みざ...
(640字。目安の読了時間:2分) 十一月廿二日。 ※天。 先考の詩集来青閣集五百部ほど残りたるを取りまとめて、威三郎方へ送り届く。 夜清元会に行く。 適葵山人の来るに逢ふ。 大雨となる。 十一月廿三日。 花月楼主人を訪ふ。 楼上にて恰も清元清寿会さらひありと聞き、会場に行きて見る。 菊五郎小山内氏等皆席に在り。 十一月廿四日。 洋書を整理し大半を売卻す。 此日いつより...