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十二月廿二日。 築地二丁目路地裏の家漸く空きたる由。 竹田屋人足を指揮して、家具書筐を運送す。 曇りて寒き日なり。 午後病を冒して築地の家に徃き、家具を排置す、日暮れて後桜木にて晩飯を食し、妓八重福を伴ひ旅亭に帰る。 此妓無毛美開、閨中欷歔すること頗妙。 十二月廿三日。 雪花紛々たり。 妓と共に旅亭の風呂に入るに湯の中に柚浮びたり。 転宅の事にまぎれ、此日冬至の節なるをも忘れゐたりしなり。 午後旅亭を引払ひ、築地の家に至り几案書筐を排置して、日の暮るゝと共に床敷延べて伏す。 雪はいつか雨となり、点滴の音さながら放蕩の身の末路を弔ふものゝ如し。 十二月廿五日。 終日老婆しんと共に家具を安排し、夕刻銀座を歩む。 雪また降り来れり。 路地裏の夜の雪亦風趣なきにあらず。 三味線取出して低唱せむとするに皮破れゐたれば、桜木へ貸りにやりしに、八重福満佐等恰その家に在りて誘ふこと頻なり。 寝衣に半纒引きかけ、路地づたひに徃きて一酌す。 雪は深更に及んでます/\降りしきる。 二妓と共に桜木に一宿す。 十二月廿六日。 雪歇みて暖なり。 二妓雪後の墨堤を歩むべしと勧めたれば、自働車にて先浅草に至り、観音堂に詣づ。 御籤を引くに第六十二大吉を得たり。 余妓を携へて浅草寺に賽するや必御籤を引きて吉凶を占ふに、当らずといふことなし。 余居邸を売り、路地の陋屋に隠退し、将に老後の計をなさむとす。 大吉の御籤を得て喜び限りなし。 災轗時々退。
名顕四方揚。
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