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唖々子暴飲泥酔例によつて例の如し。 この夜寿美子を招ぎしが来らず。 興味忽索然たり。 寿美子さして絶世の美人といふほどにはあらず、されど眉濃く黒目勝の眼ぱつちりとしたるさま、何となくイスパニヤの女を思出さしむる顔立なり。 予この頃何事につけても再び日本を去りたき思ひ禁ずべからず。 同じく病みて路傍に死するならば、南欧の都市をさまよひ地中海のほとりの土になりたし。 晩餐を食し唖々子と土橋際にて別れ電車に乗る。 曾て新橋巴家へ出入せし呉服屋井筒屋の番頭に逢ふ。 予が現在身につけたる袷もたしか此の番頭の持来りし品なり。 徃事茫々都て夢の如し。 呵々。 十月六日。 空くもりて秋の庭しづかなり。 終日虫鳴きしきりて歇まず。 芒花風になびき鵙始めて啼く。 旧友坂井清君夫人同道にて来訪せらる。 十月八日。 雨始めて晴る。 読書執筆共に倦まず。 十月九日。 余今日まで男物のお召縮緬及び大島紬を嫌ひて着ざりしが、近年糸織または※[#「くさかんむり/即」、U+83AD、40-14]糸などの縞柄よきもの殆見当らざるにより、已むことを得ず試に薩摩縞お召の袷を新調す。 着て見れば思ひしほどにはにやけて見えず。 時のはやりは不思議なものなり。 三十間堀春日にて昼餉をなし夕刻新富座楽屋に松莚子を訪ふ。 この日風冷なり。 十月十日。 花月原稿執筆。 黄昏雨あり虫の音少くなりぬ。 十月十二日。 ※。 左眼を病む。 十月十三日。 新冨町の妓両三人を携へて新冨座を見る。
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