(814字。目安の読了時間:2分) そこには魚が泳いでいて、黒いゴンドラが幽霊のように緑の水の上を走って行きます。わたしは」と、月はなおも語りつづけました。 「きみにその都市の中でいちばん大きな広場を見せてあげましょう。そうすれば、きみはまるでお伽(とぎ)の都市に来たのかと思うでしょう。広い敷石のあいだには草が生えています。夜が明けはじめると、人なれた鳩(はと)が何千ともなく、離れて立っている...
(729字。目安の読了時間:2分) 窓からさしこむ月の光だけでは十分ではないので、もっと明るい光で照らさなければならなかったのです。そこには小さい女の子が人形のように、腕を心配そうに着物からはなし、指を一本一本ひろく開いて、かたくなって立っていました。ああ、その眼と顔ぜんたいとが、どんなに喜びに輝いていたことでしょう! 『あしたは、その着物をきて、おもてへ行ってもいいのよ』と、母親が言いました...
(833字。目安の読了時間:2分) そこで監督は、美しいコロンビーナと陽気なアルレッキーノが出なくても見物人を失望させないように、何かほんとうに愉快なものを上演しなければなりませんでした。そのため、プルチネッラはいつもの二倍もおかしく振舞わなければならなかったのです。プルチネッラは心に絶望を感じながらも、踊ったり跳ねたりしました。そして拍手喝采を受けました。 『すばらしいぞ(ブラボー)! じつ...
(790字。目安の読了時間:2分) プルチネッラがすっかり不機嫌になっているときでも、コロンビーナだけはこの男をほほえませることのできる、いや大笑いをさせることのできるただひとりの人でした。最初のうちはコロンビーナもこの男といっしょに憂鬱になっていましたが、やがていくらか落ちつき、最後には冗談ばかりを言いました。 『あたし、あんたに何が欠けているか知ってるわ』と、コロンビーナは言いました。『そ...
(756字。目安の読了時間:2分) 盛りあがる大波のかなたの墓場へさすらい行く人々のために祈れよ!」 [#改ページ] 第十六夜 「わたしはひとりのプルチネッラを知っています」と、月が言いました。 「見物人はこの男の姿を見ると、大声にはやしたてます。この男の動作は一つ一つがこっけいで、小屋じゅうをわあわあと笑わせるのです。けれどもそれは、わざと笑わせようとしているわけではなく、この男の生れつき...
(782字。目安の読了時間:2分) それで小さい女の子は、母親のそばにぐっとからだをすり寄せました。母親は、かけはじめたわたしのまるい月の輪を見上げながら、故郷でなめてきたひどい苦労のことを思いうかべたり、払うことのできなかった重い税金のことを考えたりしていました。それは、この一行のだれもが考えていることでした。だから赤々と輝く暁の光は、ふたたび訪れてくるであろう幸運の太陽の福音のように思われ...
(755字。目安の読了時間:2分) だけども、人間は神さまの姿を見ることができない。だから、神さまが赤ん坊を連れていらっしゃるのも、ぼくたちには見えないのさ』 その瞬間、ニワトコの木の枝の中でザワザワという音がしました。子供たちは両手を合せて、互いに顔を見合せました。たしかに神さまが子供を連れてきたのです。――ふたりは手を取り合いました。家の戸があきました。それはおとなりのおばさんでした。 ...
(743字。目安の読了時間:2分) 屋根は苔(こけ)でおおわれていて、黄色い花やイワレンゲが咲いています。小さい庭にはキャベツとばれいしょがあるだけですが、生垣にはニワトコが花をいっぱいに咲かせています。 その下に、ひとりの小さい女の子がすわっていました。その子は鳶色の眼で、二軒の家のあいだに立っている古いカシワの木をじっと見つめていました。この木は枯れた高い幹を持っているのですが、その上の...
(741字。目安の読了時間:2分) あの男を個人的にほめる者はいくらでもある。われわれはあの男を慢心させないようにしようじゃないか!』 『疑う余地なき才能!』と、編集長は書きました。『だれにもありがちの不注意。この著者もまた不幸な詩句を書くことは、二十五ページに見いだされる。そこには二つの母音重複がある。古人についてさらに研究されんことを切望する、云々(うんぬん)』 わたしはそこを立ち去りま...
(755字。目安の読了時間:2分) ぼくの“家庭生活についての随想録”にりっぱな批評を書いたのは、この男なんですよ。若い人に対しては寛大でいてやりたいものです』 『いや、あれはまったくの愚物ですよ』と、この部屋にいたもうひとりの紳士が言いました。『詩では凡庸ということぐらい悪いことはありませんよ。それにあの男ときたら、一歩も凡庸以上に出ていないんですからね』 『かわいそうなやつ!』と、第三の男...