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窓からさしこむ月の光だけでは十分ではないので、もっと明るい光で照らさなければならなかったのです。そこには小さい女の子が人形のように、腕を心配そうに着物からはなし、指を一本一本ひろく開いて、かたくなって立っていました。ああ、その眼と顔ぜんたいとが、どんなに喜びに輝いていたことでしょう! 『あしたは、その着物をきて、おもてへ行ってもいいのよ』と、母親が言いました。女の子は帽子を見上げたり、着物を見おろしたりしながら、嬉(うれ)しそうにほほえみました。 『お母さん!』と、女の子は言いました。『あたしがこんなすてきな着物を着ているのを見たら、犬たちなんて思うかしら!』」 [#改ページ] 第十八夜 「わたしは」と、月が言いました。 「きみにポンペーのことを話してあげたことがありますが、あれはいきいきとした都市がたくさん並んでいる中で、さらしものにされている都市の死骸です。けれどもわたしは、それよりももっと珍しい、もう一つの都市を知っています。それは都市の死骸ではなくて、都市の幽霊です。 噴水が大理石の水盤の中でぴちゃぴちゃ音をたてているところではどこでも、わたしはその水に浮んでいる都市のおとぎばなしを聞いているような気がします。たしかに、噴水の水はそれを物語っているにちがいありません。打寄せる岸辺の波はそれを歌っているにちがいありません。海のおもてには、しばしば霧がたちこめます。それは寡婦のベールです。海の花婿は死にました。その城とその都市とは、いまや御陵となっているのです。 きみはこの都市を知っていますか? その通りには車のころがる音も、馬のひづめの音も聞えたことがありません。そこには魚が泳いでいて、黒いゴンドラが幽霊のように緑の水の上を走って行きます。
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