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そこには魚が泳いでいて、黒いゴンドラが幽霊のように緑の水の上を走って行きます。わたしは」と、月はなおも語りつづけました。 「きみにその都市の中でいちばん大きな広場を見せてあげましょう。そうすれば、きみはまるでお伽(とぎ)の都市に来たのかと思うでしょう。広い敷石のあいだには草が生えています。夜が明けはじめると、人なれた鳩(はと)が何千ともなく、離れて立っている高い塔のまわりを飛びまわります。 きみは三方からアーケードに取りかこまれています。そこには長いキセルをもったトルコ人がじっとすわっています。美しいギリシャの少年が円柱によりかかって、昔の威力を物語る戦勝記念標の高い旗竿を見上げています。旗は喪章のように垂れさがっています。ひとりの娘がそこで休んでいます。水のはいった重い桶(おけ)を下に置いていました。桶をかついできた棒は肩の上にのせたまま、戦勝柱に身をもたせています。 いまきみの眼の前に見えるのは妖精の城ではなくて、教会です。金めっきをした円屋根とそのまわりの金の球が、わたしの光を受けて、きらきらと輝いています。その上のほうにあるりっぱな青銅の馬は、おとぎばなしの中の青銅の馬のように、旅をしてきました。はじめここへやってきて、それから行ってしまい、そうしてまた戻ってきたのです。きみには壁や窓の色とりどりの美しさが見えますか? まるで天才が子供の言うなりになって、この珍しい寺院の装飾をしたのではないかと思われます。 きみにはあの円柱の上の翼のある獅子が見えますか? 金はいまもかわらず光っていますが、翼はしばられています。獅子は死んでいるのです。なぜならば、海の王が死んでいるからです。大きな会堂の中はからっぽです。むかし高価な絵がかかっていたところも、いまでは裸の壁がむきだしになっています。浮浪者がアーチの下で眠っています。かつては、この廊下には身分の高い貴族しか足を踏み入れることができなかったものです。
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