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それで小さい女の子は、母親のそばにぐっとからだをすり寄せました。母親は、かけはじめたわたしのまるい月の輪を見上げながら、故郷でなめてきたひどい苦労のことを思いうかべたり、払うことのできなかった重い税金のことを考えたりしていました。それは、この一行のだれもが考えていることでした。だから赤々と輝く暁の光は、ふたたび訪れてくるであろう幸運の太陽の福音のように思われたのです。いまにも死にそうなナイチンゲールの歌声を聞いても、それは悪い予言者ではなく、幸運の告知者のように聞えたのです。風がヒューヒューと鳴っていました。ですから人々には、ナイチンゲールのうたう歌がわかりませんでした。 『安らかに海を渡れ! 長い船路のために、おまえは持てるすべてのものを支払った。貧しくよるべなく、おまえはおまえのカナーンの地を踏むだろう。おまえはみずからを売り、妻を売り、子供を売らねばならない。だが、長く苦しむことはない! 香り高い広い葉かげに、死の女神がすわっている。その歓迎のキスは、おまえの血の中に死の熱病を吹きこむのだ。ゆけよ、ゆけ、盛りあがる大波を越えて!』 旅人の一行は、喜んでナイチンゲールの歌に聞きいりました。というのは、その歌がやがて来る幸福をうたっているように思われたからです。薄雲のあいだから日が輝いてきました。農夫たちは荒野を横切って教会へ行きました。黒い着物を着て、頭を厚い白い麻布でつつんだ女たちの姿は、教会の中の古い絵からおりたってきたのではないかと思われました。このあたりを取り巻いているものは、ひろびろとした荒寥たる環境ばかりでした。乾からびた褐色のヒースと、うす黒く焦げた芝草が、白い砂洲のあいだに見えるだけでした。女たちは讃美歌の本を持って、教会のほうへ行きました。ああ、祈れよ! 盛りあがる大波のかなたの墓場へさすらい行く人々のために祈れよ!」
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