(748字。目安の読了時間:2分) あの大きな、毛むくじゃらの熊ではありませんか! 熊は下の中庭に立っているのがたいくつになったのです。そして、階段を上る道を見つけたのでした。わたしはそれをのこらず見ていました!」と、月が言いました。 「子供たちはこの大きな毛むくじゃらの動物を見るとびっくりぎょうてんして、めいめい隅っこへ這(は)いこみました。けれども、熊は三人ともみんな見つけてしまいました。...
(742字。目安の読了時間:2分) 御者は道のりの半分以上もよく眠ってきたのに、――それはわたしがいちばんよく知っていますが――まだ手足をのばしていました。下男部屋への戸は開いていましたが、寝床はまるでひっくり返されたかと思われるようなありさまでした。ろうそくは床の上に置いてあって、燭台の中に深く燃え落ちていました。 風が冷たく小屋の中を吹きぬけていました。時刻は真夜中というよりは、もう明け...
(805字。目安の読了時間:2分) そしてそれは、壁に打ちこまれた一本の木釘で、しっかりととめられています。その金めっきをした木は虫に食いあらされています。クモが王冠から棺まで網を張りめぐらしています。これは、人間の悲しみと同じように、はかない喪章の旗です! 王たちは、なんて静かにまどろんでいるのでしょう! わたしはあの人たちのことをはっきりと覚えています! あんなにも力強く、あんなにも決然...
(747字。目安の読了時間:2分) 空高く野の白鳥の群れが飛んでいました。その中の一羽は翼の力がおとろえて、だんだん下へ沈んで行きました。その眼はしだいに遠ざかって行く空の旅行隊の後を追っていましたが、翼をひろくひろげて、ちょうどしゃぼん玉が静かな空気の中を沈んで行くように、沈んで行きました。やがて水面に触れました。頭をそらして翼のあいだにつっこむと、おだやかな湖に浮ぶ白い蓮(はす)の花のよ...
(793字。目安の読了時間:2分) この町のはずれの、平たい敷石をしいた屋根の上に――そこの欄干は瀬戸物でできているように見えます――白い大きな風鈴草をさした、きれいな花瓶が置いてありましたが、そのそばに美しいペーが、細いいたずらっぽい眼と、ふくよかな唇と、それは小さな足をしてすわっていました。靴のために足はしめつけられていましたが、心はもっともっと強くしめつけられているのでした。娘がきゃしゃ...
(847字。目安の読了時間:2分) そしてどの仏の前にも――それはみんな錫(すず)でつくってあります――小さい祭壇があって、そこには聖い水と、花と、火のともっているろうそくとがありました。けれどもお寺の中のいちばん高いところには、最高の御仏である仏陀が聖なる絹の黄衣を身にまとって立っていました。 祭壇の足もとに、ひとりの生きた人間の姿が、ひとりの若い僧侶が、すわっていました。この僧侶は祈って...
(794字。目安の読了時間:2分) 』それは小さい煙突そうじの小僧でした。生れてはじめて煙突の中をてっぺんまでのぼってきて、頭を外につき出したのでした。 『ばんざい!』そうです、そのとおりです。たしかにこれは、狭苦しい管や小さい煖炉の中を這(は)いずりまわるのとは、いささかわけが違っていました。そよ風がすがすがしく吹いていました。町じゅうが緑の森のあたりまで見わたせました。ちょうど太陽がのぼり...
(750字。目安の読了時間:2分) この家の主人は帽子もかぶらず立っていて、この老婦人の手にうやうやしくキスをしました。 老婦人はこの人の母親だったのです。老婦人は息子と召使たちに親しげにうなずいてみせました。それから、人々は老婦人を狭い暗い小路の中の、とある小さな家へ運んで行きました。そこにこの老婦人は住んでいました。そこで子供たちを生んだのです。そしてそこから、子供たちの幸福が花のように...
(754字。目安の読了時間:2分) それは大きなマントにくるまった、背の高い、がっしりした男で、青い眼と長い白い髪の毛を持っていました。わたしはこの人を知っていました。そしてすぐさまわたしは、ナイルの群像やあらゆる大理石の神々のあるバチカン宮のことを思い浮べました。それといっしょに、あの小さなみすぼらしい部屋のことも思いだしました。あの小さいベルテルが短い寝巻のまますわって、糸をつむいでいたの...
(794字。目安の読了時間:2分) その巨大な神はスフィンクスに身をもたせて、まるで移り行く年月のことを考えてでもいるかのように、物思いにしずんで、夢みるように横たわっていました。小さい愛の神のアモールたちは、そのまわりでワニとたわむれていました。豊饒の角の中にはごく小さいアモールがひとり、腕を組んですわっていました。そして、おごそかな顔をした大きな河の神を見ていました。このアモールは、あの紡...