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それは大きなマントにくるまった、背の高い、がっしりした男で、青い眼と長い白い髪の毛を持っていました。わたしはこの人を知っていました。そしてすぐさまわたしは、ナイルの群像やあらゆる大理石の神々のあるバチカン宮のことを思い浮べました。それといっしょに、あの小さなみすぼらしい部屋のことも思いだしました。あの小さいベルテルが短い寝巻のまますわって、糸をつむいでいたのは、たしかグレンネ街だったと思います。時の車はぐるぐるまわりました。新しい神々が、大理石の中から立ちあがったのです。――小舟の中から、ばんざいの声がひびきました。 『ベルテル・トルワルセンばんざい!』――」 [#改ページ] 第二十五夜 「わたしはきみにフランクフルトの、ある光景を話してあげましょう」と、月が言いました。 「わたしはそこで特に一つの建物をながめました。といっても、それはゲーテの生れた家でもなく、古い議事堂でもありません。その議事堂の格子窓からは、そのむかし皇帝の戴冠式のときにあぶり肉にされて、人々のご馳走にされた、角のついたままの牡牛の頭蓋骨が、いまもなお突きでているのですが、しかし、わたしがながめていたのはそんなものではなくて、せまいユダヤ人街の入口の角のところにある、緑色に塗られた、みすぼらしい平民の家だったのです。それはロスチャイルドの家でした。 わたしは開いている戸口から中をのぞいてみました。階段のところには、あかあかと明りがついていました。そこには下男たちが重そうな銀の燭台に火のともっているろうそくを持って、立っていました。そして、轎(かご)に乗ったまま階段を運ばれてきた、ひとりの年とった婦人に向って、ていねいにおじぎをしていました。この家の主人は帽子もかぶらず立っていて、この老婦人の手にうやうやしくキスをしました。
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