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この家の主人は帽子もかぶらず立っていて、この老婦人の手にうやうやしくキスをしました。 老婦人はこの人の母親だったのです。老婦人は息子と召使たちに親しげにうなずいてみせました。それから、人々は老婦人を狭い暗い小路の中の、とある小さな家へ運んで行きました。そこにこの老婦人は住んでいました。そこで子供たちを生んだのです。そしてそこから、子供たちの幸福が花のように咲きいでたのです。もしもいま、わたしが人からいやしまれているこの小路と小さい家とを見捨てたなら、幸福もまた息子たちを見捨てるだろう、というのが、この老婦人の信念だったのです。――」 月はこれ以上話してくれませんでした。 今夜の月の訪れはあまりに短いものでした。 しかしわたしは、人からいやしまれているその狭い小路に住む年とった婦人のことを考えてみました。 このひとがたったひとこと言いさえすれば、テームズ河のほとりに光りかがやく家が立つのです。 たったひとこと言いさえすれば、ナポリの入江近くに別荘が立つのです。 『もしもわたしが、息子たちの幸福が咲きいでたこの小さい家を見捨てたなら、幸福も息子たちを見捨てるだろう!』――それは迷信です。 でもそれは、人がこの話を知り、その絵を見るときに、それを理解するためには、「母親」という二つの文字をその下に書いておきさえすればいいといった類いの迷信です。 [#改ページ] 第二十六夜 「きのうの夜明けのことでした」これは月自身が言った言葉です。 「大きな町の煙突は、まだどれも煙をはいていませんでした。それでもわたしが見ていたのは、その煙突だったのです。と、とつぜん、その煙突の一つから、小さい頭が出てきました。つづいて上半身が現われて、両腕を煙突のふちにかけました。 『ばんざい!』それは小さい煙突そうじの小僧でした。
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