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そしてそれは、壁に打ちこまれた一本の木釘で、しっかりととめられています。その金めっきをした木は虫に食いあらされています。クモが王冠から棺まで網を張りめぐらしています。これは、人間の悲しみと同じように、はかない喪章の旗です! 王たちは、なんて静かにまどろんでいるのでしょう! わたしはあの人たちのことをはっきりと覚えています! あんなにも力強く、あんなにも決然と喜びや悲しみを語った、口もとにただよう大胆な微笑が、いまもなお眼に浮んできます。蒸気船が魔法のかたつむりのように山々のあいだをぬってきますと、ときおり旅人が会堂へやってきます。そしてこの円天井のお墓の部屋を訪れて、王たちの名前をたずねます。でもその人の耳には、王たちの名前は忘れられたもの、死んだものとしてひびくのです。その人は虫の食った王冠を見上げてほほえみます。そしてその人が本当に敬虔な心の持主であれば、そのほほえみの中には哀愁の色がただよいます。まどろみなさい、死者たちよ! 月はきみたちのことを覚えています。月は夜、もみの木の王冠のかかっている、きみたちの静かな王国へ、冷やかな光を送ってあげます!――」 [#改ページ] 第三十夜 「国道のすぐそばに」と、月が話しました。 「一軒の旅館があります。そしてその真向いに、大きな馬車小屋があります。小屋の屋根はちょうど葺(ふ)いたばかりでした。わたしは桷(たるき)のあいだと開いている天井窓から、そのうす気味悪い小屋の中をのぞいてみました。七面鳥が梁(はり)の上で眠っていました。鞍(くら)はからっぽの秣桶(まぐさおけ)の中に入れて、休まされていました。 小屋のまん中には、旅行馬車が一台置いてありました。その持主はまだぐっすりと寝こんでいましたが、馬はもう水を飲まされていました。御者は道のりの半分以上もよく眠ってきたのに、――それはわたしがいちばんよく知っていますが――まだ手足をのばしていました。
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