(813字。目安の読了時間:2分) 『計算は済みました。 其の坊さんの要求を満足さしてやりますには、あなたの穀倉の中にある小麦だけでは足りません。 町中にあるだけでも、国中にあるだけでも足りません。 世界中のでも足りません。 要求された量の小麦粒で、海と陸とをよせた大地球全体を、指の深さにちつとも断れ間のないやうに覆ふてしまふ事が出来る程なのです。』 王様は自分で其の小麦の粒の勘定...
(826字。目安の読了時間:2分) 『ほんの一寸した事で結構でございます』と此の発明者は答へた。 『貧乏な坊主を満足させるのはたやすい事でございます。 何卒私に、小麦の粒を、将棋盤の最初の目には一つ、其の次の目には二つ、三番目の目には四つ、四番目のには八つ、といふやうに小麦の粒の数を倍にして最後の目までふやして勘定して頂きます。 盤の目は六十四あります。 それだけ頂ければ私は満足いたし...
(845字。目安の読了時間:2分) 一つのからなんか蟻が出て来ると道が真黒な位どつさりゐましたよ。 あんなのは小さい虫をみんな育てるのに、よつぽど沢山の木虱がいりますね。』 『それは大変なもんだよ。』と叔父さんはジユウルに話しました。 『が蟻は決して牝牛に不足する事はないだらうよ。 そして木虱は不足しないどころかそれよりもつと沢山ゐるんだよ。 それは時々私達のキヤベツの収穫がうまくゆ...
(842字。目安の読了時間:2分) さうして此の蟻共は、そのはちきれさうなお腹が空になるまでわけてやるのだ。 乳搾りの蟻はそれから又お腹を一杯にしに戻つて行く。 『で、お前達は、自分で食べ物の処までゆけない労働者の蟻共が口一ぱいに食べ物をつめ込むのには、一匹の乳搾りからのでは十分でない事が想像出来るね。 それは沢山の乳搾りが要る。 そしてまだ、地面の下の暖い寝所にも腹のへつてゐる蟻がう...
(829字。目安の読了時間:2分) 誰でも他人の為めに働く前に先づ自分の元気をつけなくちやならない。 しかし自分がたべるとすぐに、ほかの飢じい者の事を考へるのだ。 人間の間では、何時もさうは行かない。 人間は自分が御馳走をたべれば、他の者もみんなやはりちやんと御馳走をたべてゐるものと思ふものがある。 そんな人間の事を利己主義者と云ふのだ。 お前達も此のつまらない名前のつくやうな事をし...
(878字。目安の読了時間:2分) それには、此の骨組みの上へ湿つた土の粒を一つ一つ堆み上げて行つて、木虱のゐるところまで円天井のやうなもので、茎を囲む。 そして此の小舎に出はいりする為めの出入口をつくる。 それで小舎は出来あがつたのだ。 涼しく静かで、そして同時に食料も十分あるのだ。 此の上もない幸福な事だ。 牝牛は無事に其処の秣架に居る。 即ち木の皮にひつつけてある。 蟻共は...
(846字。目安の読了時間:2分) 神様は丁度人間に牝牛をあてがつて下すつたやうに、蟻には木虱をおあてがひになつたのですね。』 『さうだ、ジヤツクや、』とポオル叔父さんは答へました。 『それはみんな神様に対する私達の信仰を増させるのだ。 神様の眼からは何物ものがれるものはないのだ。 考へ深い人には、花の底から蜜を吸ふ甲虫も焼けるやうな瓦から雨垂れを取る苔の房も、神様の慈しみを証拠立てゝ...
(844字。目安の読了時間:2分) 』とクレエルが叫びました。 『不思議だねえ。 だが、接骨木ばかりが蟻の牝牛共のゐる藪ではないんだよ。 木虱は他のいろんな木にも見つける事が出来るのだ。 キヤベツや薔薇の藪にたかつてゐる木虱は緑色をしてゐるし、接骨木や、豆や、けしや、蕁麻や、柳、ポプラのは黒、樫と薊(あざみ)のは青銅色、夾竹桃や胡桃とか榛(はんのき)とかにつくのは黄色だ。 みんな二つ...
(873字。目安の読了時間:2分) 木のやはらかい処や葉の裏には数へる事も出来ない位にびつしりくつつき合つて、真黒なびろうどのやうな虱(しらみ)がしつかりくつついてゐました。 その虱は、毛よりも細い吸盤を皮の中に突込んで、少しも其の位置を変へずに接骨木の樹汁で無事に腹を一杯にしてゐるのです。 其のお尻の先に小さくて穴のある二本の毛を持つてゐます。 その二つの管からは、よく気をつけて見ると...
(858字。目安の読了時間:2分) その蟻共は時々道で立ち止つて他の蟻とどう上つて行くかについて相談してゐるやうに見えます。 そして又すぐに一層熱心に這ひ上つて行きます。 降りて来る蟻達はゆつくりとした様子で小さな足どりで来ます。 そして自分から足を佇(と)めて休んだり、上つて来る蟻に忠告をしてやつたりします。 誰れでも上つて行く者と降りる者の熱心さのちがふ原因は容易に察する事が出来ま...