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『ほんの一寸した事で結構でございます』と此の発明者は答へた。 『貧乏な坊主を満足させるのはたやすい事でございます。 何卒私に、小麦の粒を、将棋盤の最初の目には一つ、其の次の目には二つ、三番目の目には四つ、四番目のには八つ、といふやうに小麦の粒の数を倍にして最後の目までふやして勘定して頂きます。 盤の目は六十四あります。 それだけ頂ければ私は満足いたします。 又、私の青い鳩も其の小麦で幾日かを十分にさゝへる事が出来ませう。』 『此奴は馬鹿だな。』と王様は心の中で云つた。 『大金持にだつてなれるのに此の坊主は俺にたつた一と握りの小麦をねだつたりして。』そして自分の家来の方をふり向いて云つた。 『金貨を千枚づつ十の財布に入れて此の男にやれ。 それから小麦を一俵ほどやれ。 一俵あれば此の男が俺にねだつた小麦の百倍にも当るだらう。』 『信仰深い王様!』と坊さんが答へました。 『金貨の財布は、私の青い鳩には入り用がないのでございます。 私には何卒私がおねがひいたしました小麦を頂かして下さいませ。』 『よしよし、では一俵の小麦の代りに百俵も要るか。』 『正直に申しますと、それでも不十分でございます。』 『では千俵か。』 『どういたしまして。 私の将棋盤の目はちやんときまつた数しか持つては居りません。』 此の間に家来達は、千俵の中味の中には、六十四を六十四度倍加した麦粒がないといふ、坊さんの不思議な云ひ草におどろいて、ひそ/\話しあつてゐた。 王様はたうとう辛抱しきれずに、学者達を集めて坊さんの要求した小麦の粒の計算をさせた。 坊さんはその鬚面の中に一くせありさうな笑ひを浮べて、遠慮してわきの方に退いて、計算の終るのを待つてゐた。 見る/\計算者のペンの下では数字がずん/\ふえて行つた。 そして計算がすんだ。 そして一人が頭をあげた。 『王様』と其の学者は云つた。 『計算は済みました。
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