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その蟻共は時々道で立ち止つて他の蟻とどう上つて行くかについて相談してゐるやうに見えます。 そして又すぐに一層熱心に這ひ上つて行きます。 降りて来る蟻達はゆつくりとした様子で小さな足どりで来ます。 そして自分から足を佇(と)めて休んだり、上つて来る蟻に忠告をしてやつたりします。 誰れでも上つて行く者と降りる者の熱心さのちがふ原因は容易に察する事が出来ます。 降りて来る蟻達の胃袋はふくれて、重くて、不格好な程一杯になつてゐます。 上つて行く蟻達の胃袋はうすくてぺちやんこにたゝまつて、ひもじさに啼(な)いてゐます。 それを間違ひつこはありません。 降りる蟻達は、沢山な御馳走をたべて、のろのろと家に帰つて行くのです。 上る方の蟻は、からつぽの胃袋を一ぱいにしようとする熱心さで、茂みの中を襲ふて、おなじ御馳走の処に走つて行くのです。 『蟻達は接骨木の上で、胃袋を一杯にする何を見つけたのです?』とジユウルが尋ねました。 『其処にゐるのなんか、やつと体と一しよに胃袋を引きずつてゐるぢやありませんか。 大食ひだなあ。』 『大食ひ? さうぢやない。』とポオル叔父さんはジユウルの云つた事を直しました。 『あの蟻達は、もつとえらい目的でたらふく食ふのだ。 此の接骨木の上の方に沢山の牝牛がゐるのだ。 降りて来る蟻達は丁度今其の牝牛から乳を搾つて来た処なのだよ。 ふくれたお腹をひきづつて行くのは、蟻塚殖民地に共同の食物のミルクを運んでゐるのだ。 では、其の牝牛から乳を搾る処を見ようかね。 けれども断つておくがね、其の牝牛の群を人間のと同じやうに思つてはいけないよ。 其の牧場は一枚の葉つぱで用に足りるのだからね。』 ポオル叔父さんは接骨木の枝の先きを、子供達に見える位まで引き下ろしました。 そしてみんなで、よく気をつけて見ました。 木のやはらかい処や葉の裏には数へる事も出来ない位にびつしりくつつき合つて、真黒なびろうどのやうな虱(しらみ)がしつかりくつついてゐました。
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