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2020-08-20

科学の不思議(20/30)

(829字。目安の読了時間:2分)

誰でも他人の為めに働く前に先づ自分の元気をつけなくちやならない。 しかし自分がたべるとすぐに、ほかの飢じい者の事を考へるのだ。 人間の間では、何時もさうは行かない。 人間は自分が御馳走をたべれば、他の者もみんなやはりちやんと御馳走をたべてゐるものと思ふものがある。 そんな人間の事を利己主義者と云ふのだ。 お前達も此のつまらない名前のつくやうな事をしないやうにしなければならない。 蟻は極くつまらない小さな生き者だが、此の小さな生き者の手前だけでも、そんな名前は恥ぢなければならない。 其処で蟻共は満足すると直ぐ飢ゑてゐる他の蟻の事を思ひ出す。 だから、其の液体の食べ物を家に持つて帰るために、そのたつた一つの器の中にそれを一ぱいにつめ込むのだ。 それが即ちはちきれさうなあのお腹なのだ。 『さて蟻共はその脹れたお腹をかゝへて帰つてゆく。 そのお腹は他の者がたべてもいゝ沢山の食物がつまつてゐるのだ。 坑夫や大工やその他の労働者達は町の建築に体を働かせながら、それを待ちこがれて熱心に働き続けてゐる。 その蟻共はさし迫つた作業の為めに自分達で出かけて行て木虱をさがすといふ事は出来ないのだ。 一匹の大工がそのお腹のふくれた蟻に出遇ふ。 するとすぐにその大工は自分の持つてゐる藁を降す。 そして二匹の蟻は丁度キツスでもするやうに口と口とをくつつける。 そしてその乳を持つて来た方の蟻は、そのはちきれさうな腹の中につまつてゐるものをほんの少しはき出すのだ。 そしてもう一匹の蟻は夢中になつてそれを飲むのだ。 甘い! そしてこんどはまあなんと云ふ元気のいゝ働き方だらう? 大工はまた藁をかついで行つてしまふし、乳くばりは、自分のくばる道を歩きつゞける。 そして他の飢ゑた蟻に遇ふ。 またそれとキツスをする。 口から口に汁をはき出して入れてやる。 さうして此の蟻共は、そのはちきれさうなお腹が空になるまでわけてやるのだ。

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