ブンゴウメール公式ブログ

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2020-09-04

秘密(4/30)

(557字。目安の読了時間:2分) 浅草橋と和泉橋は幾度も渡って置きながら、その間にある左衛門橋を渡ったことがない。 二長町の市村座へ行くのには、いつも電車通りからそばやの角を右へ曲ったが、あの芝居の前を真っ直ぐに柳盛座の方へ出る二三町ばかりの地面は、一度も蹈んだ覚えはなかった。 昔の永代橋の右岸の袂(たもと)から、左の方の河岸はどんな工合になって居たか、どうも好く判らなかった。 その外...

2020-09-03

秘密(3/30)

(571字。目安の読了時間:2分) 私はその時まで、たびたび八幡様へお参りをしたが、未だ嘗(かつ)て境内の裏手がどんなになっているか考えて見たことはなかった。 いつも正面の鳥居の方から社殿を拝むだけで、恐らくパノラマの絵のように、表ばかりで裏のない、行き止まりの景色のように自然と考えていたのであろう。 現在眼の前にこんな川や渡し場が見えて、その先に広い地面が果てしもなく続いている謎のような...

2020-09-02

秘密(2/30)

(570字。目安の読了時間:2分) 同時に又こんな事も考えて見た。 ――― 己は随分旅行好きで、京都、仙台、北海道から九州までも歩いて来た。 けれども未だこの東京の町の中に、人形町で生れて二十年来永住している東京の町の中に、一度も足を蹈(ふ)み入れた事のないと云う通りが、屹度あるに違いない。 いや、思ったより沢山あるに違いない。 そうして大都会の下町に、蜂の巣の如く交錯している大小無...

2020-09-01

秘密(1/30)

(525字。目安の読了時間:2分) その頃私は或(あ)る気紛れな考から、今迄自分の身のまわりを裹(つつ)んで居た賑(にぎ)やかな雰囲気を遠ざかって、いろいろの関係で交際を続けて居た男や女の圏内から、ひそかに逃れ出ようと思い、方々と適当な隠れ家を捜し求めた揚句、浅草の松葉町辺に真言宗の寺のあるのを見附けて、ようよう其処の庫裡の一と間を借り受けることになった。 新堀の溝へついて、菊屋橋から門跡の...

2020-08-30

科学の不思議(30/30)

(606字。目安の読了時間:2分)  放つておけば、一寸の間に世界中に蔓(ひろが)るかもしれない此の木虱を、あの金色の眼の蜻蛉や、小さい瓢虫や、いろんな雛鳥が食ひ尽してしまへようか。 『かうしていろんなガツ/\者共が食べ荒らすにも拘はらず、木虱は猶人間を真面目に驚かせる程ゐる。 翼のある木虱が、日光を隠してしまふ程のあつい群れになつて飛ぶのを見る事がある。 其の真黒な群れは、或る県から他...

2020-08-29

科学の不思議(29/30)

(880字。目安の読了時間:2分) 木虱は、卵を産むといふ非常にのろいやり方をしないで、生きた木虱其者を産むのだ。 どの木虱も皆んな、絶対的に皆んな、二週間程育つと、もう其の子を産み初めるのだ。 それは木虱のゐる季節の間ずつと、云ひ換へれば、一年のうちの少くとも半分の間は、繰り返す。 そして此の一と季節の世代の数は、十二以上にもなる。 先づ一匹の木虱が十匹を産むとする。 これでは実際...

2020-08-28

科学の不思議(28/30)

(887字。目安の読了時間:2分) そして弱いものは其の絶滅の機会を免れようとして、殺されても猶いくらでも生んで行つて、遂にそれに打ち勝つのだ。 ガツガツの大食家共がいくら八方から攻めて来たつて駄目だ。 食はれる方はたつた一匹を保護するために、幾百万もを犠牲にする。 食はれゝば食はれる程沢山産む。 『鯡(にしん)、鱈(たら)、それから鰯(いわし)は、海や、陸や、空の貪食家の為めに、牧場...

2020-08-27

科学の不思議(27/30)

(826字。目安の読了時間:2分) のろまな牝牛共は、その群がだん/\まばらになつて来て、恐ろしい事が近づいて来ると云ふ事も知らないのだ。 捕まつた木虱は獅子の牙の間でもがいてゐる。 他の者は何の出来事もないやうに呑気にたべつづけてゐる。 『此の木虱の獅子は、腹の中のものが消化するまで、牝牛共の中に気楽にうづくまつてゐる。 けれどもその消化は非常に早い。 そしてその間にもう此のガツ/...

2020-08-26

科学の不思議(26/30)

(902字。目安の読了時間:2分) が、一匹が十匹になつて行けば、ほんの一寸の間で、其の数は勘定の出来ない位に殖える。 坊さんの考へた小麦の粒を六十四度二倍したものは、地球全体を指の深さの小麦の床で覆ふようになるのだ。 が、もしそれを二倍する代りに十倍にしたらどうだらう! 一匹の木虱の子孫を十倍する事を続けて行つたら、数年の後には世界中が木虱で一ぱいになつてしまふだらう。 けれども其処に...

2020-08-25

科学の不思議(25/30)

(839字。目安の読了時間:2分) 』 『僕、坊さんが其の金貨が千枚づつはいつた十の財布をことわつたと云ふのには一寸おどろきましたよ。 だけども坊さんはそれよりはもつといゝものを待つてゐたんですね。 十の財布はいつまでもそのまゝになつてはゐませんからね?』 『其の金貨一枚は十二フランの値うちがあるのだ。 だから王様が坊さんにやらうとして持ち出した総計は十二万フランと、其の外に小麦の袋...

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