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2020-08-26

科学の不思議(26/30)

(902字。目安の読了時間:2分)

が、一匹が十匹になつて行けば、ほんの一寸の間で、其の数は勘定の出来ない位に殖える。 坊さんの考へた小麦の粒を六十四度二倍したものは、地球全体を指の深さの小麦の床で覆ふようになるのだ。 が、もしそれを二倍する代りに十倍にしたらどうだらう! 一匹の木虱の子孫を十倍する事を続けて行つたら、数年の後には世界中が木虱で一ぱいになつてしまふだらう。 けれども其処には、死といふ大きな刈り取り手がある。 此の死は、あまりに蔓(ひろが)りすぎる生物を減らして、生物の間の調和をよくし、そして又、すべての生物を、絶えず若くしてゆく。 薔薇の木の一番安全に見えるような処にでも絶えず、此の死が襲ふて来るのだ。 先づ小さいのや、弱いのは、此の牧場のいろんな大食家共の毎日のパンになる。 さういふ風に、小さい弱い木虱は、さういくつもの危険に曝されないでも、自分を保護する何の方法もないのだ。 小鳥が其の鋭い眼で木虱で出来たしみを見つけ出すが早いか、ひつさらつて、まるでアペタイザでもたべるやうに、一ぺんに幾百もそれをのんでしまふ。 そして若しそれが虫だつたら、もつとずつと慾張るのだ。 可哀想な木虱よ! あの恐ろしい虫は、お前をたべて生きてゐるやうに、特別につくられて生れて来てゐるのだ。 けれども、神様はきつと可哀想な生き物のお前を本当にあぶないお前の種族のために保護してくれるだらう。 『此の食ひ荒しやは、きれいな緑色で、背中に白い筋をもつてゐて、そして前の方が細くなつて後へ脹れてゐる。 その虫の事を、木虱の獅子と云ふのだ。 何故なら、蟻達ののろまな牝牛を荒らすところから、自然にさういふ名になつてしまつたのだ。 その尖(とが)つた口で、よく肥つた大きい一つをひつ捉へると、すぐにそれを呑む。 そしてその皮は投げすてる。 それはむごすぎる位だ。 その尖つた頭は、また低くなる。 次ぎの木虱を捉へる。 葉から起して呑む。 さうして廿番目の百番目のと、次から次へと呑んでゆく。 のろまな牝牛共は、その群がだん/\まばらになつて来て、恐ろしい事が近づいて来ると云ふ事も知らないのだ。

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