(744字。目安の読了時間:2分) キイチゴの蔓(つる)とリンボクが、石の間からのびています。ここに、自然の中の詩があるのです。きみは、人々がこれをどんなふうに考えていると思いますか? そうだ、わたしがそこで、きのうの夕方から夜にかけて聞いたことだけを話してあげましょう。 最初に金持の農夫がふたり、馬車に乗ってやってきました。 『そこらにあるのは、たいした木じゃないか!』と、ひとりが言いまし...
(738字。目安の読了時間:2分) はだの見える地面が、大きな文字や名前となって現われています。そしてそういう文字や名前が、大きな丘の上に張られた一つの網のようになっているのです。いわば一種の不滅です。もっとも、それをまた新しい芝生がおおっていくのですが。 そこに、ひとりの男が立っていました。歌い手でした。男はひろい銀の輪のついた蜜酒のさかずきを飲みほして、一つの名前をつぶやきました。そして...
(761字。目安の読了時間:2分) 華麗な広間、戦っている人々の群れ! 引裂かれた旗は床の上に落ちていました。三色旗は銃剣の先にはためいていました。そして玉座の上には、青ざめて聖らかな顔をした貧しい男の子が、眼を天へ向けて横たわっていました。手足は死との戦いのために、もうぐったりとしていました。あらわな胸、みすぼらしい着物、そしてその上を半ばおおっている、銀のユリの花のついた、立派なビロー...
(744字。目安の読了時間:2分) 『これはそのビロードじゃなかったんだよ』と、番人は言いました。そう言う番人の口もとには、微笑がただよいました。 『でも、ここでしたよ!』と、お婆さんは言いました。『こんなふうだったんですもの!』 『こんなだったかもしれないが』と、番人は答えました。『そうじゃないね。窓はたたきこわされ、戸はひっぱがされて、床の上には血が流れていたのさ! ――だがね、あんたは、...
(777字。目安の読了時間:2分) オーケストラのすぐそばに、若い公爵夫妻が、二つの古い肘掛いすに腰かけているのが見えました。いつもなら、この席には町長夫妻がすわることになっていたのですが、今夜ばかりは、ほかの町の人たちとおなじように、木のベンチに腰かけなければなりませんでした。 『まあどうでしょう。タカがタカに追われたというものですわね!』と、奥さんたちが小声で話しあっていました。なにもか...
(754字。目安の読了時間:2分) 女は、もう死んでいたのです。あけはなたれた窓から、死んだ女が、人間のありかたをといていました。牧師の家の庭の、わたしのバラの花が!」 [#改ページ] 第四夜 「わたしは、今夜、ドイツ喜劇を見てきました」と、月が言いました。 「それは、ある小さな町でのことでした。馬小屋が芝居小屋になっていました。つまり、馬をつなぐ仕切りはそのまま残してあって、これをかざりたて...
(736字。目安の読了時間:2分) それから十年たって、わたしは、その娘をもう一度見ました。こんどは、はなやかな舞踏室にいるのを見たのです。そのときは、ある金持の商人の、美しい花嫁になっていたのでした。わたしは娘の幸福をよろこんで、静かな夜ごとに、たずねてやりました。ああ、それにしても、だれひとりとして、わたしの明るい眼と、わたしのたしかな眼差しとを、考えてくれる者はありません! わたしのバ...
(773字。目安の読了時間:2分) わたしは、このいけない子に、すっかり腹をたててしまいました。ですから、父親が出てきて、きのうよりももっとひどくしかりつけて、女の子の腕をつかんだときには、ほんとにうれしくなりました。女の子は、頭をうしろへそらせました。すると、青い眼に大粒の涙が光っていました。 『おまえは、ここで何をしているんだ?』と、父親がたずねました。すると、女の子は泣きだしました。 『...
(792字。目安の読了時間:2分) 娘は、その明りが、自分の眼に見えるかぎりのあいだ、もえつづけていれば、愛する人はまだ生きている、けれども、もしも消えてしまえば、もうこの世にはいないのだということを、知っていたのです。見れば、明りは、もえながらふるえました。娘の心も、もえあがって、ふるえました。娘は膝まずいて、祈りました。すぐそばの草の中に、ぬらぬらしたヘビがいました。けれども娘は、梵天王と...
(763字。目安の読了時間:2分) [#改ページ] 第一夜 「ゆうべ」これは、月が話したとおりの言葉です。 「わたしは、インドの澄みきった空気の中をすべって、ガンジス河にわたしの姿をうつしていました。わたしの光は、古いプラタナスの葉が、ちょうどカメの甲のように盛りあがって、茂っている生垣の中に、さしこもうとしていました。 するとそのとき、茂みの中から、カモシカのように身軽で、イブのように美し...