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わたしは、このいけない子に、すっかり腹をたててしまいました。ですから、父親が出てきて、きのうよりももっとひどくしかりつけて、女の子の腕をつかんだときには、ほんとにうれしくなりました。女の子は、頭をうしろへそらせました。すると、青い眼に大粒の涙が光っていました。 『おまえは、ここで何をしているんだ?』と、父親がたずねました。すると、女の子は泣きだしました。 『あたしはね』と、女の子は言いました。『この中へはいって、めんどりにキスをしてやって、きのうのおわびをしようと思ってたの。だけど、おとうさんには、どうしても、そのことが言えなかったのよ!』 それを聞くと、父親は、このむじゃきな、かわいい子のひたいにキスをしてやりました。わたしも、その眼と口にキスをしてやりました」 [#改ページ] 第三夜 「ここのすぐ近くの、せまい小路で――そこはとてもせまいので、わたしは家の壁にそって、ほんの一分間しか光をすべらせることができません。でもその一分間に、そこに動いている世間を知るのに十分なものを見るのですが――わたしは、ひとりの女を見ました。十六年前には、この女はまだ子供でした。そして、田舎の、古い牧師の家の庭で遊んでいたのでした。バラの生垣は古くなって、もう花ざかりをすぎていましたが、道の外まで生いしげって、長い枝をリンゴの木立の中までのばしていました。まだあちこちに咲きのこっている花もありましたが、花の女王にふさわしいほど美しくはありませんでした。それでも、色もありましたし、香りもありました。しかしわたしには、牧師の小さな娘のほうが、ずっと美しいバラの花のように思われました。その娘は、のびにのびた生垣の下の、足台に腰かけて、厚紙でこしらえた人形の、へこんだ頬(ほお)にキスをしていました。 それから十年たって、わたしは、その娘をもう一度見ました。
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