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『これはそのビロードじゃなかったんだよ』と、番人は言いました。そう言う番人の口もとには、微笑がただよいました。 『でも、ここでしたよ!』と、お婆さんは言いました。『こんなふうだったんですもの!』 『こんなだったかもしれないが』と、番人は答えました。『そうじゃないね。窓はたたきこわされ、戸はひっぱがされて、床の上には血が流れていたのさ! ――だがね、あんたは、わたしの孫はフランス国の玉座の上で死んだと、言おうと思えば言えるんだよ!』 『死んだ!』とお婆さんはくりかえしました。――それからは、一言も話さなかったような気がします。ふたりは、まもなくその広間を出て行きました。夕暮の薄明りが消え失せました。そのためわたしの光は、二倍に明るくなって、フランス国の玉座のまわりの立派なビロードの上を照らしました。きみは、そのお婆さんはだれだったと思いますか?―― わたしはきみに一つの物語をしてあげましょう。それは七月革命のときのこと、あの世にも輝かしい勝利の日の夕暮だったのです。一軒一軒の家が城砦となり、一つ一つの窓が堡塁となっていました。民衆はチュイルリー宮へ向って突進しました。女や子供たちまでも、戦う人々の中にまじっていました。人々は宮殿の部屋や広間の中に押し入って行きました。ぼろを着た貧しい小さな男の子がひとり、年上の人たちのあいだで勇敢に戦っていました。しかしそのうちに、あちこちを銃剣でつかれて致命傷を受け、とうとう床の上に倒れました。それは玉座の間での出来事でした。人々は血まみれの男の子をフランス国の玉座の上に横たえて、傷のまわりにビロードを巻きつけました。血潮は王のまっかなじゅうたんの上に流れました。そのありさまはまったく一つの絵でした! 華麗な広間、戦っている人々の群れ!
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