ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」の公式ブログです。

2019-10-09

おじいさんのランプ(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (492字。目安の読了時間:1分)  巳之助は駄賃の十五銭を貰うと、人力車とも別れてしまって、お酒にでも酔ったように、波の音のたえまないこの海辺の町を、珍らしい商店をのぞき、美しく明かるいランプに見とれて、さまよっていた。  呉服屋では、番頭さんが、椿の花を大きく染め出した反物を、ランプの光の下にひろげて客に見せていた。 穀屋では、小僧さんがランプの下で小豆のわるいのを一...

2019-10-08

おじいさんのランプ(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (519字。目安の読了時間:2分) まっくらな家の中を、人々は盲のように手でさぐりながら、水甕や、石臼や大黒柱をさぐりあてるのであった。 すこしぜいたくな家では、おかみさんが嫁入りのとき持って来た行燈を使うのであった。 行燈は紙を四方に張りめぐらした中に、油のはいった皿があって、その皿のふちにのぞいている燈心に、桜の莟ぐらいの小さいほのおがともると、まわりの紙にみかん色の...

2019-10-07

おじいさんのランプ(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (455字。目安の読了時間:1分) 馴れないこととてたいそう苦しかった。 しかし巳之助は苦しさなど気にしなかった。 好奇心でいっぱいだった。 なぜなら巳之助は、物ごころがついてから、村を一歩も出たことがなく、峠の向こうにどんな町があり、どんな人々が住んでいるか知らなかったからである。  日が暮れて青い夕闇の中を人々がほの白くあちこちする頃、人力車は大野の町にはいった。...

2019-10-06

おじいさんのランプ(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (432字。目安の読了時間:1分)  身を立てるのによいきっかけがないものかと、巳之助はこころひそかに待っていた。  すると或る夏の日のひるさがり、巳之助は人力車の先綱を頼まれた。  その頃岩滑新田には、いつも二、三人の人力曳がいた。 潮湯治(海水浴のこと)に名古屋から来る客は、たいてい汽車で半田まで来て、半田から知多半島西海岸の大野や新舞子まで人力車でゆられていったも...

2019-10-05

おじいさんのランプ(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (429字。目安の読了時間:1分)  今から五十年ぐらいまえ、ちょうど日露戦争のじぶんのことである。 岩滑新田の村に巳之助という十三の少年がいた。  巳之助は、父母も兄弟もなく、親戚のものとて一人もない、まったくのみなしごであった。 そこで巳之助は、よその家の走り使いをしたり、女の子のように子守をしたり、米を搗いてあげたり、そのほか、巳之助のような少年にできることなら何...

2019-10-04

おじいさんのランプ(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (478字。目安の読了時間:1分) ねえやにお茶をいいつけておいて、すっぽんと煙管筒をぬきながら、こういった。 「東坊、このランプはな、おじいさんにはとてもなつかしいものだ。長いあいだ忘れておったが、きょう東坊が倉の隅から持出して来たので、また昔のことを思い出したよ。こうおじいさんみたいに年をとると、ランプでも何でも昔のものに出合うのがとても嬉しいもんだ」  東一君はぽか...

2019-10-03

おじいさんのランプ(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (426字。目安の読了時間:1分)  日ぐれに東一君は家へ帰って来た。 奥の居間のすみに、あのランプがおいてあった。 しかし、ランプのことを何かいうと、またおじいさんにがみがみいわれるかも知れないので、黙っていた。  夕御飯のあとの退屈な時間が来た。 東一君はたんすにもたれて、ひき出しのかんをカタンカタンといわせていたり、店に出てひげを生やした農学校の先生が『大根栽培...

2019-10-02

おじいさんのランプ(2/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (457字。目安の読了時間:1分) こらこら、それはここへ持って来て、お前たちは外へ行って遊んで来い。外に行けば、電信柱でも何でも遊ぶものはいくらでもあるに」  こうして叱られると子供ははじめて、自分がよくない行いをしたことがわかるのである。 そこで、ランプを持出した東一君はもちろんのこと、何も持出さなかった近所の子供たちも、自分たちみんなで悪いことをしたような顔をして、...

2019-10-01

おじいさんのランプ(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (407字。目安の読了時間:1分)  かくれんぼで、倉の隅にもぐりこんだ東一君がランプを持って出て来た。  それは珍らしい形のランプであった。 八十糎ぐらいの太い竹の筒が台になっていて、その上にちょっぴり火のともる部分がくっついている、そしてほやは、細いガラスの筒であった。 はじめて見るものにはランプとは思えないほどだった。  そこでみんなは、昔の鉄砲とまちがえてしま...

2019-09-30

老妓抄(30/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (593字。目安の読了時間:2分) 遠慮のない相手に向って放つその声には自分が世話をしている青年の手前勝手を詰る激しい鋭さが、発声口から聴話器を握っている自分の手に伝わるまでに響いたが、彼女の心の中は不安な脅えがやや情緒的に醗酵して寂しさの微醺のようなものになって、精神を活溌にしていた。 電話器から離れると彼女は 「やっぱり若い者は元気があるね。そうなくちゃ」呟きながら眼...

公式サイト

ブンゴウメール

ブンゴウメール

1日3分のメールでムリせず毎月1冊本が読める、忙しいあなたのための読書サポートサービス

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチ

ブンゴウサーチは、青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービスです。