ブンゴウメール
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今から五十年ぐらいまえ、ちょうど日露戦争のじぶんのことである。
岩滑新田の村に巳之助という十三の少年がいた。
巳之助は、父母も兄弟もなく、親戚のものとて一人もない、まったくのみなしごであった。
そこで巳之助は、よその家の走り使いをしたり、女の子のように子守をしたり、米を搗いてあげたり、そのほか、巳之助のような少年にできることなら何でもして、村に置いてもらっていた。
けれども巳之助は、こうして村の人々の御世話で生きてゆくことは、ほんとうをいえばいやであった。
子守をしたり、米を搗いたりして一生を送るとするなら、男とうまれた甲斐がないと、つねづね思っていた。
男子は身を立てねばならない。
しかしどうして身を立てるか。
巳之助は毎日、ご飯を喰べてゆくのがやっとのことであった。
本一冊買うお金もなかったし、またたといお金があって本を買ったとしても、読むひまがなかった。
身を立てるのによいきっかけがないものかと、巳之助はこころひそかに待っていた。
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