ブンゴウメール
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まっくらな家の中を、人々は盲のように手でさぐりながら、水甕や、石臼や大黒柱をさぐりあてるのであった。
すこしぜいたくな家では、おかみさんが嫁入りのとき持って来た行燈を使うのであった。
行燈は紙を四方に張りめぐらした中に、油のはいった皿があって、その皿のふちにのぞいている燈心に、桜の莟ぐらいの小さいほのおがともると、まわりの紙にみかん色のあたたかな光がさし、附近は少し明かるくなったのである。
しかしどんな行燈にしろ、巳之助が大野の町で見たランプの明かるさにはとても及ばなかった。
それにランプは、その頃としてはまだ珍らしいガラスでできていた。
煤けたり、破れたりしやすい紙でできている行燈より、これだけでも巳之助にはいいもののように思われた。
このランプのために、大野の町ぜんたいが竜宮城かなにかのように明かるく感じられた。
もう巳之助は自分の村へ帰りたくないとさえ思った。
人間は誰でも明かるいところから暗いところに帰るのを好まないのである。
巳之助は駄賃の十五銭を貰うと、人力車とも別れてしまって、お酒にでも酔ったように、波の音のたえまないこの海辺の町を、珍らしい商店をのぞき、美しく明かるいランプに見とれて、さまよっていた。
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