ブンゴウメール
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馴れないこととてたいそう苦しかった。
しかし巳之助は苦しさなど気にしなかった。
好奇心でいっぱいだった。
なぜなら巳之助は、物ごころがついてから、村を一歩も出たことがなく、峠の向こうにどんな町があり、どんな人々が住んでいるか知らなかったからである。
日が暮れて青い夕闇の中を人々がほの白くあちこちする頃、人力車は大野の町にはいった。
巳之助はその町でいろいろな物をはじめて見た。
軒をならべて続いている大きい商店が、第一、巳之助には珍らしかった。
巳之助の村にはあきないやとては一軒しかなかった。
駄菓子、草鞋、糸繰りの道具、膏薬、貝殻にはいった目薬、そのほか村で使うたいていの物を売っている小さな店が一軒きりしかなかったのである。
しかし巳之助をいちばんおどろかしたのは、その大きな商店が、一つ一つともしている、花のように明かるいガラスのランプであった。
巳之助の村では夜はあかりなしの家が多かった。
まっくらな家の中を、人々は盲のように手でさぐりながら、水甕や、石臼や大黒柱をさぐりあてるのであった。
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