ブンゴウメール
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巳之助は駄賃の十五銭を貰うと、人力車とも別れてしまって、お酒にでも酔ったように、波の音のたえまないこの海辺の町を、珍らしい商店をのぞき、美しく明かるいランプに見とれて、さまよっていた。
呉服屋では、番頭さんが、椿の花を大きく染め出した反物を、ランプの光の下にひろげて客に見せていた。
穀屋では、小僧さんがランプの下で小豆のわるいのを一粒ずつ拾い出していた。
また或る家では女の子が、ランプの光の下に白くひかる貝殻を散らしておはじきをしていた。
また或る店ではこまかい珠に糸を通して数珠をつくっていた。
ランプの青やかな光のもとでは、人々のこうした生活も、物語か幻燈の世界でのように美しくなつかしく見えた。
巳之助は今までなんども、「文明開化で世の中がひらけた」ということをきいていたが、今はじめて文明開化ということがわかったような気がした。
歩いているうちに、巳之助は、様々なランプをたくさん吊してある店のまえに来た。
これはランプを売っている店にちがいない。
巳之助はしばらくその店のまえで十五銭を握りしめながらためらっていたが、やがて決心してつかつかとはいっていった。
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