ブンゴウメール公式ブログ

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桜の樹の下には(7/7)

(287字。目安の読了時間:1分) 俺の心に憂鬱が完成するときにばかり、俺の心は和んでくる。 ――おまえは腋(わき)の下を拭いているね。冷汗が出るのか。それは俺も同じことだ。何もそれを不愉快がることはない。べたべたとまるで精液のようだと思ってごら…

桜の樹の下には(6/7)

(321字。目安の読了時間:1分) 隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅(はね)が、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。 俺はそれを見たとき、胸が衝かれるような気がした。墓場を発…

桜の樹の下には(6/7)

(321字。目安の読了時間:1分) 隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅(はね)が、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。 俺はそれを見たとき、胸が衝かれるような気がした。墓場を発…

桜の樹の下には(5/7)

(308字。目安の読了時間:1分) 水のしぶきのなかからは、あちらからもこちらからも、薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て、溪の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っているとおり、彼らはそこで美しい結婚をするのだ。しば…

桜の樹の下には(4/7)

(365字。目安の読了時間:1分) 桜の根は貪婪な蛸(たこ)のように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を聚(あつ)めて、その液体を吸っている。 何があんな花弁を作り、何があんな蕊(しべ)を作っているのか、俺は毛根の吸いあげる水…

桜の樹の下には(3/7)

(307字。目安の読了時間:1分) 俺にはその美しさがなにか信じられないもののような気がした。俺は反対に不安になり、憂鬱になり、空虚な気持になった。しかし、俺はいまやっとわかった。 おまえ、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋…

桜の樹の下には(2/7)

(391字。目安の読了時間:1分) どうして俺が毎晩家へ帰って来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、選りに選ってちっぽけな薄っぺらいもの、安全剃刀の刃なんぞが、千里眼のように思い浮かんで来るのか――おまえはそれがわからないと言ったが――そして俺に…