ブンゴウメール公式ブログ

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2021-04-01

幸福への意志(1/30)

(589字。目安の読了時間:2分)  老ホフマンはその金を、南アメリカの耕地の持主として、儲けたのであった。 彼地で家柄のよい土着の娘と結婚してから、まもなく妻を連れて、故郷の北ドイツへ引き移った。 二人は僕の生れた町で暮していた。 ホフマンのほかの家族たちも、そこに住みついていたのである。 パオロはこの町で生れた。  その両親を僕は、しかしあまりよく知らなかった。 が、ともかくパ...

2021-03-31

みずうみ(31/31)

(597字。目安の読了時間:2分)  しかし娘は反対な桃花村をながめ、そこへ心はふしぎに憧れた。 けれども何故かそう嘘をつかなければならなかった。 「お前はわたしのそばに居なくともよいのだ。お前の好きなところへ、そして勇ましく出て行ってくれ。」  眠元朗は娘を渚へつれて行ってそう言うと、不意に舟を渚から水の上へ辷り出させた。 湖水の上には青い竜のような影をひいた日の光が、ななめに桃花村...

2021-03-30

みずうみ(30/31)

(645字。目安の読了時間:2分) 「わたしはわたしばかりの事を考えていたのだ。お前というものがわたしの事情以外にも、何でこの世の中へ出てわるかっただろう? いや、お前はもっと早くにもっと素晴らしい人生へ出て行くべきであったに、わたしの頑なむしろむごたらしい気もちはこんなに永い間お前を封じていた。しかも今の今までお前の考えていたことまで、無理遣りに壊そうとしていた。娘よ、わるいものはわたし一人...

2021-03-29

みずうみ(29/31)

(661字。目安の読了時間:2分)  眠元朗はあわてて娘の手をとって、その手を合そうとするのをほつれさせ、そうして悲しげに何度も吃(ども)った。 「あやまるのはお前でなくて、わたしだ。わたしはお前を何度も何度もだました。そしておれ自身が寂しいためにお前をこんなに寂しいとこへ連れてきて、遠い世の何ものも見せまいとした。お前には人生そのものすら存在しないまでに、そんなにまで叮嚀(ていねい)にわた...

2021-03-28

みずうみ(28/31)

(631字。目安の読了時間:2分) そしてお父さんの何んであるかということ、又お父さんがお前がいなくなったあとを考えてみてくれ。もう分ったろうね。」  娘はそのまんまるい目を父の目に向けた。 そのまんまるさは次第に大きくはなったが、しかし輪廓をぼやけさせてゆがんで、それを持ちこらえられなくなって、いきなり飛びついて悲しげに甲斐絹のような柔い長い声で欷(すす)り泣いた。 その泣くたびに苦し...

2021-03-27

みずうみ(27/31)

(685字。目安の読了時間:2分) 「いや、おれはそんなことで諦らめたりなんかするものか、きっとさがし出して見せるよ。」  そういう眠元朗のこえは何時の間にか、かすかな震えを帯びるほど或る恐怖に似た不安と憂慮を交えていた。 その上いつの間に娘がこうまで執念深く自分の心を傷めるようになっただろうかと思った。 ――しかし心の奥では最初たわむれて言ったことが、次第に娘の本気をさそい出したことを...

2021-03-26

みずうみ(26/31)

(637字。目安の読了時間:2分) 「わたしが彼処へ行ってしまったら、既うそれきりになって帰って来ないような気がしますもの。もし然うだったらお父さまはどう成さるおつもり――。」  娘の眼はその瞬間にやさしい猾(ず)るさを、その可愛げな頬ににっとうかべた。 ――眠元朗はちくりと胸を螫(さ)されたような気がした。 かるい不快が伴うた気分だった。 「お前がかえらなかったら――そうだな、お父さ...

2021-03-25

みずうみ(25/31)

(630字。目安の読了時間:2分) が、誰も何も言わなかった。 夜とともに濃くなる褐色の空気はこの家も砂原も、そうして湖の上まで飴のように固めてしまっていた。 四  娘は父親と渚をあるきながら其処に乱れている美しい貝殻を手に拾い、そして温んだ湖水がおりおり足を洗うのに、心から興じていた。 「こんなに温かくなると、貝殻までが沖へ向って帆を立てるように、みんな起き上っているようですわね。ほ...

2021-03-24

みずうみ(24/31)

(611字。目安の読了時間:2分) そしてやっと口をひらくと言った。 「わたし最うすっかり退窟してしまいましたの。何一つおもしろいこともございませんし……。」  父親は苦笑した。 そしてまじまじと娘の顔をながめると、思い切ったように言った。 「お前がわたしだちのそばを離れてしまったら、そんなに退窟はしなくなるだろう、けれどもわたしはお前をはなさない――。」 「なぜ?」  母親は父の...

2021-03-23

みずうみ(23/31)

(620字。目安の読了時間:2分)  かれらが卓子に向い合っても、徒らに静かな夜はゆっくりと目に立たぬ程度で廻転っているらしかった。 「わたしだちは此処に何時まで居なければならないんでしょうか、わたしは心まで遠くにあるような気がしますの。」  女はそういうと身体を灯のかげから起した。 「お前も退窟しているな、だが、どうにもならないのだ。こうして何時までも居なければならないのだろう。それが...

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