ブンゴウメール公式ブログ

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2020-10-10

父帰る(10/15)

(609字。目安の読了時間:2分) わしも、四、五年前までは、人の二、三十人も連れて、ずうと巡業して回っとったんやけどもな。 呉で見世物小屋が丸焼になったために、えらい損害を受けてな。 それからは何をしても思わしくないわ。 その内に老先が短くなってくる、女房子のいる所が恋しゅうなってうかうかと帰って来たんや。 老先の長いこともない者やけに皆よう頼むぜ。 (賢一郎を注視して)さあ賢一郎...

2020-10-09

父帰る(9/15)

(556字。目安の読了時間:2分) 男の声 上ってもええかい。 母の声 ええとも。 (二十年振りに帰れる父宗太郎、憔悴したる有様にて老いたる妻に導かれて室に入り来る、新二郎とおたねとは目をしばたたきながら、父の姿をしみじみ見つめていたが) 新二郎 お父さんですか、僕が新二郎です。 父   立派な男になったな、お前に別れた時はまだ碌(ろく)に立てもしなかったが……。 おたね お父さん、...

2020-10-08

父帰る(8/15)

(521字。目安の読了時間:2分) 新二郎 どんな人だ。 おたね 暗くて、分からなんだけど、背の高い人や。 新二郎 (立って次の間へ行き、窓から覗く)……。 賢一郎 誰かいるかい。 新二郎 いいや、誰もおらん。 (兄弟三人沈黙している) 母   あの人が家を出たのは盆の三日後であったんや。 賢一郎 おたあさん、昔のことはもういわんようにして下さい。 母   わしも若い時は恨んで...

2020-10-07

父帰る(7/15)

(584字。目安の読了時間:2分) (三人食事にかかる) 母   たねも、もう帰ってくるやろう。 もうめっきり寒うなったな。 新二郎 おたあさん、今日浄願寺の椋(むく)の木で百舌が鳴いとりましたよ。 もう秋じゃ。 ……兄さん、僕はやっぱり、英語の検定をとることにしました。 数学にはええ先生がないけに。 賢一郎 ええやろう。 やはり、エレクソンさんとこへ通うのか。 新二郎 そう...

2020-10-06

父帰る(6/15)

(533字。目安の読了時間:2分) 賢一郎 (やや真面目に)杉田さんがその男に会うたのは何日のことや。 新二郎 昨日の晩の九時頃じゃということです。 賢一郎 どんな身なりをしておったんや。 新二郎 あんまり、ええなりじゃないそうです。 羽織も着ておらなんだということです。 賢一郎 そうか。 新二郎 兄さんが覚えとるお父さんはどんな様子でした。 賢一郎 わしは覚えとらん。 新二郎...

2020-10-05

父帰る(5/15)

(595字。目安の読了時間:2分) 同じ町へ帰ったら自分の生れた家に帰らんことはないけにのう。 賢一郎 しかし、お父さんは家の敷居はちょっと越せないやろう。 母   私はもう死んだと思うとんや、家出してから二十年になるんやけえ。 新二郎 いつか、岡山で会った人があるというんでしょう。 母   あれも、もう十年も前のことじゃ。 久保の忠太さんが岡山へ行った時、家のお父さんが、獅子や虎の...

2020-10-04

父帰る(4/15)

(590字。目安の読了時間:2分) 母   仕立物を持って行っとんや。 新二郎 (和服になって寛ぎながら)兄さん! 今日僕は不思議な噂をきいたんですがね。 杉田校長が古新町で、家のお父さんによく似た人に会ったというんですがね。 母と兄 うーむ。 新二郎 杉田さんが、古新町の旅籠屋が並んどる所を通っとると、前に行く六十ばかりの老人がある。 よく見るとどうも見たようなことがあると思って、...

2020-10-03

父帰る(3/15)

(540字。目安の読了時間:2分) 母   宿直やけに、遅うなるんや。 新は今月からまた月給が上るというとった。 賢一郎 そうですか。 あいつは中学校でよくできたけに、小学校の先生やこしするのは不満やろうけど、自分で勉強さえしたらなんぼでも出世はできるんやけに。 母   お前の嫁も探してもろうとんやけど、ええのがのうてのう。 園田の娘ならええけど、少し向うの方が格式が上やけにくれんか...

2020-10-02

父帰る(2/15)

(580字。目安の読了時間:2分) 母   けんど、一万や、二万の財産は使い出したら何の役にもたたんけえな。 家でもおたあさんが来た時には公債や地所で、二、三万円はあったんやけど、お父さんが道楽して使い出したら、笹につけて振るごとしじゃ。 賢一郎 (不快なる記憶を呼び起したるごとく黙している)……。 母   私は自分で懲々しとるけに、たねは財産よりも人間のええ方へやろうと思うとる。 財...

2020-10-01

父帰る(1/15)

(550字。目安の読了時間:2分) 人物  黒田賢一郎     二十八歳  その弟  新二郎  二十三歳  その妹  おたね  二十歳  彼らの母 おたか  五十一歳  彼らの父 宗太郎 時  明治四十年頃 所  南海道の海岸にある小都会 情景 中流階級のつつましやかな家、六畳の間、正面に箪笥があって、その上に目覚時計が置いてある。 前に長火鉢あり、薬缶から湯気が立ってい...

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