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(439字。目安の読了時間:1分) もう草原に足がつきそうだと思うのに、そんなこともなく、際限もなく落ちて行きました。 だんだんそこいらが明るくなり、神鳴りが鳴り、しまいには眼も明けていられないほど、まぶしい火の海の中にはいりこんで行こうとするのです。 そこまで落ちたら焼け死ぬ外はありません。 帽子が大きな声を立てて、 「助けてくれえ」 と呶鳴りました。 僕は恐ろしくて唯うなりま...
(454字。目安の読了時間:1分) そうしたら、僕の心にえらい智慧(ちえ)が湧いて来ました。 あの狸帽子が天の所でいたずらをしているので、おとうさんやおかあさんは僕のいるのがお分かりにならないんだ。 そうだ、あの帽子に化けている狸おやじを征伐するより外はない。 そう思いました。 で、僕は空中にぶら下がっている帽子を眼がけて飛びついて、それをいじめて白状させてやろうと思いました。 僕...
(487字。目安の読了時間:1分) 僕の体は学校の鉄の扉を何の苦もなく通りぬけたように、おとうさんとおかあさんとを空気のように通りぬけてしまいました。 僕は驚いて振り返って見ました。 おとうさんとおかあさんとは、そんなことがあったのは少しも知らないように相変らず本棚と箪笥とをいじくっていらっしゃいました。 僕はもう一度二人の方に進み寄って、二人に手をかけて見ました。 そうしたら、二人ば...
(473字。目安の読了時間:1分) 僕はいくらそんな所を探したって僕はいるものかと思いながら、暫くは見つけられないのをいい事にして黙って見ていました。 「どうもあれがこの本の中にいないはずはないのだがな」 とやがておとうさんがおかあさんに仰有います。 「いいえそんな所にはいません。またこの箪笥の引出しに隠れたなりで、いつの間にか寝込んだに違いありません。月の光が暗いのでちっとも見つかり...
(477字。目安の読了時間:1分) 泣くような声もしました。 いよいよ狸の親方が来たのかなと思うと、僕は恐ろしさに脊骨がぎゅっと縮み上がりました。 ふと僕の眼の前に僕のおとうさんとおかあさんとが寝衣のままで、眼を泣きはらしながら、大騒ぎをして僕の名を呼びながら探しものをしていらっしゃいます。 それを見ると僕は悲しさと嬉(うれ)しさとが一緒になって、いきなり飛びつこうとしましたが、やはり...
(450字。目安の読了時間:1分) 野原はだんだん暗くなって行きます。 どちらを見ても人っ子一人いませんし、人の家らしい灯の光も見えません。 どういう風にして家に帰れるのか、それさえ分らなくなってしまいました。 今までそれは考えてはいないことでした。 ひょっとしたら狸(たぬき)が帽子に化けて僕をいじめるのではないかしら。 狸が化けるなんて、大うそだと思っていたのですが、その時ばかり...
(462字。目安の読了時間:1分) 真暗に曇った空に僕の帽子が黒い月のように高くぶら下がっています。 とても手も何も届きはしません。 飛行機に乗って追いかけてもそこまでは行けそうにありません。 僕は声も出なくなって恨めしくそれを見つめながら地だんだを踏むばかりでした。 けれどもいくら地だんだを踏んで睨(にら)みつけても、帽子の方は平気な顔をして、そっぽを向いているばかりです。 こっち...
(433字。目安の読了時間:1分) あっと思うと僕は梅組の教室の中にいました。 僕の組は松組なのに、どうして梅組にはいりこんだか分りません。 飯本先生が一銭銅貨を一枚皆に見せていらっしゃいました。 「これを何枚呑むとお腹の痛みがなおりますか」 とお聞きになりました。 「一枚呑むとなおります」 とすぐ答えたのはあばれ坊主の栗原です。 先生が頭を振られました。 「二枚です」と...
(471字。目安の読了時間:1分) 夜のことだからそこいらは気味の悪いほど暗いのだけれども、帽子だけははっきりとしていて、徽章までちゃんと見えていました。 それだのに帽子はどうしてもつかまりません。 始めの中は面白くも思いましたが、その中に口惜しくなり、腹が立ち、しまいには情けなくなって、泣き出しそうになりました。 それでも僕は我慢していました。 そして、 「おおい、待ってくれえ」 ...