ブンゴウメール (465字。目安の読了時間:1分) そのときだった。 りっぱなひげをはやした三十あまりになる紳士と、それよりすこし下かと思われる婦人とが、かけこんで来た。 「あ、お母さん。ここへ、兄さんが訪ねて来てくれたんですって」 「あたしの兄さんは、どこにいらっしゃるの」 正吉はその話を聞いて、目をぱちくり。 「おお、お前たちの兄さんはそこにいますよ。ほら、そのかわいい坊や...
ブンゴウメール (495字。目安の読了時間:1分) なつかしい母親の笑顔だった。 「かっこうなんか、どうでもいいのですよ。その人工心臓の力によって、もっともっと長生きをして下さい」 「お医者さまは、あたしの悪い心臓を人工心臓にとりかえたので、これだけでも百歳までは生きられますとおっしゃったよ」 「百歳とは長生きですね」 「いいえ。お医者さまのお話では、もっと長生きができるんだよ。百...
ブンゴウメール (505字。目安の読了時間:2分) お母さんは一度心臓病で死にかけたんだけれど、人工心臓をつけていただいてこのとおり丈夫になったんですよ」 「人工心臓ですって」 「見えるでしょう。お母さんは背中に背嚢のようなものを背おっているでしょう。それが人工心臓なのよ」 正吉は見た。 なるほど母親は、背中に妙な四角い箱を背おっている。 それが人工心臓なのか。 正吉は目をぱ...
ブンゴウメール (522字。目安の読了時間:2分) 地面の中にもぐっていて、青空が見えるはずがない」 正吉は、うっかり思いまちがいしていたことに気がついて、顔があかくなった。 しかし、それほどほんものの秋空に見えるのだった。 区長は、正吉を、りっぱな本屋につれこんだ。 奥は住宅になっていた。 いわゆるアパートメント式の住宅であった。 そのうちの一軒の前に立った区長は、扉をこつ...
ブンゴウメール (508字。目安の読了時間:2分) しかし母は、もう死んでいますよ」 「いや、そのことはやがて分りましょう。これから町を見物しながら、そちらへご案内してみましょう」 人工心臓 正吉は、区長たちからなぐさめられて、すこし元気をとりもどした。 町を案内してもらったが、なるほどじつににぎやかであり、また清潔であった。 昔は、にぎやかな町ほど、砂ほこりが立ち、紙く...
ブンゴウメール (535字。目安の読了時間:2分) ちょうど布ぎれのないときでしたからぼくのお母さんは、それを揃えるのにずいぶん苦労しましたよ。――ああ、そういえば、ぼくのお母さんは……」 と、正吉は声をくもらせて、はなをすすった。 「どうしました、正吉さん」 と、大学病院長のサクラ女史が、うしろからやさしく正吉の顔をのぞきこんだ。 「ぼく……ぼく」 と正吉はいいよどんでいた...
ブンゴウメール (510字。目安の読了時間:2分) たとえば空気は念入りに浄化され、有害なバイキンはすっかり殺されてから、この地下へ送りこまれます。また方々に浄化塔があって、中でもって空気をきれいにしています。ごらんなさい、むこうに美しい広告塔が見えましょう。あれなんか、空気浄化器の一つなんですよ」 「ああ、あれがそうなのですか。広告塔と空気浄化器と二役をやっているのですか」 十メート...
ブンゴウメール (529字。目安の読了時間:2分) 昔は六大都市といったり、そのほか中小都市がたくさんありましたが、いまは地上にはそんなものは残っていません。しかし、地の中のにぎわいは大したものですよ。これからそっちへご案内いたしましょう」 正吉は、区長たちの案内で、ふたたび地下へ下りた。 地下といえば、正吉の地下鉄の中のかびくさいにおいを思い出す。 鉄道線路の下に掘られてある横断...
ブンゴウメール (523字。目安の読了時間:2分) わが地球人類の中の悪いやつが、ひそかに原子弾をかくして持っていましてね、それを飛行機につんで持って来て、空からおとすのです」 「どうしてでしょうか」 「どうしてでしょうかと、おっしゃいますか。つまり昔からありました、強盗だのギャングだのが。今の強盗やギャングの中には、原子弾を使う奴がいるのです。どーンとおとしておいて、その地区が大混乱に...
ブンゴウメール (610字。目安の読了時間:2分) そのために、われわれ地球人類の力は弱くなり、いざ星人がやってきたときには防衛力が弱くて、かんたんに彼らの前に手をつき、頭をさげなければならないだろう。――それをおもえば、今われわれ人類の国と国とが戦争するのはよくないことである。つまり、『今おこりかかっている戦争はおよしなさい』と警告したのです」 「ああ、なるほど、なるほど、そのとおりです...