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2019-07-18

三十年後の東京(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(535字。目安の読了時間:2分)

ちょうど布ぎれのないときでしたからぼくのお母さんは、それを揃えるのにずいぶん苦労しましたよ。――ああ、そういえば、ぼくのお母さんは……」

 と、正吉は声をくもらせて、はなをすすった。

「どうしました、正吉さん」

 と、大学病院長のサクラ女史が、うしろからやさしく正吉の顔をのぞきこんだ。

「ぼく……ぼく」

 と正吉はいいよどんでいたが、やがて思い切っていった。

「ぼく、急にぼくのお母さんに会いたくなりました。ぼくがあの冷凍球の中にはいるとき、ぼくのお母さんは五十歳でした。ああ、それから三十年たってしまったのです。するとお母さんは今年八十歳になったはず。お母さんは日頃から弱かったんです。お母さんは、とても、今まで長生きしているはずはない。ぼく……ぼく……もうお母さんに会えないだろうな」

 正吉少年のこのなげきは、たいへん気の毒であった。

カニザワ氏とサクラ女史とカンノ博士の三人は、ひたいをあつめて何か相談していたが、やがてカニザワ区長が正吉にいった。

「もしもし、正吉君。われわれに、すこし心あたりがあるんです。うまくいくと、君のお母さんに会えるかもしれませんよ」

「えっ、ほんとですか。しかし母は、もう死んでいますよ」

「いや、そのことはやがて分りましょう。

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