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2019-07-19

三十年後の東京(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(508字。目安の読了時間:2分)

しかし母は、もう死んでいますよ」

「いや、そのことはやがて分りましょう。これから町を見物しながら、そちらへご案内してみましょう」

   人工心臓

 正吉は、区長たちからなぐさめられて、すこし元気をとりもどした。

 町を案内してもらったが、なるほどじつににぎやかであり、また清潔であった。

昔は、にぎやかな町ほど、砂ほこりが立ち、紙くずがとびまわり、路上にはきたないものがおちていたものだ。

 しかし、この町はほこりは立たず、紙くずはなく、路面ははだしで歩いても足の裏がよごれないように見えた。

 町は、天井が高く、路面から三十メートルはあったろう。

そして、その天井は青く澄んで、明るかった。

まるで本ものの秋晴れの空が頭上にあるように思われた。

「あの天井には、太陽光線と同じ光を出す放電管がとりつけてあるのです。その下に紺青色の硝子板がはってあります。ですから、ここを歩いていると昔の銀ブラのときと同じ気分がするでしょう」

「ああ、あれはほんとうの空じゃなかったのですか――うん、そうだ。地面の中にもぐっていて、青空が見えるはずがない」

 正吉は、うっかり思いまちがいしていたことに気がついて、顔があかくなった。

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