(610字。目安の読了時間:2分) (Dancing Men 参照) で、俺は、俺の知っている限りの暗号記法を、一つ一つ頭に浮べて見た。そして、この紙片れの奴に似ているのを探した。随分手間取った。確か、その時君が飯屋へ行くことを勧めたっけ。俺はそれを断って一生懸命考えた。で、とうとう少しは似た点があると思うのを二つ丈け発見した。 その一つは Bacon の発明した two letter...
(645字。目安の読了時間:2分) そこで、彼奴には、あの金を保管させる所の、手下乃至は相棒といった様なものがあるに相違ない。今仮にだ、彼奴が不意の捕縛の為に、五万円の隠し場所を相棒に知らせる暇がなかったとしたらどうだ。彼奴としては、未決監に居る間に、何かの方法でその仲間に通信する外はないのだ。このえたいの知れない紙切が、若しもその通信文であったら…… こういう考が俺の頭に閃いたんだ。無論...
(654字。目安の読了時間:2分) …弥陀仏、弥、南阿陀、無阿弥、南陀仏、南阿弥陀、阿陀、南弥、南無弥仏、無阿弥陀、南無弥陀、南弥、南無弥仏、無阿弥陀、南無陀、南無阿、阿陀仏、無阿弥、南阿、南阿仏、陀、南阿陀、南無、無弥仏、南弥仏、阿弥、弥、無弥陀仏、無陀、南無阿弥陀、阿陀仏、 「この坊主の寝言見たようなものは、なんだと思う。俺は最初は、いたずら書きだと思った。前非を悔いた泥坊かなんかが、罪...
(756字。目安の読了時間:2分) 見給えこれだ」 彼は、机の抽斗から、その二銭銅貨を取出して、丁度、宝丹の容器を開ける様に、ネジを廻しながら、上下に開いた。 「これ、ね、中が空虚になっている。銅貨で作った何かの容器なんだ。なんと精巧な細工じゃないか、一寸見たんじゃ、普通の二銭銅貨とちっとも変りがないからね。これを見て、俺は思当ったことがあるんだ。俺はいつか、牢破りの名人が用いるという、...
(720字。目安の読了時間:2分) 少くとも、君の頭よりは、俺の頭の方が優れているということじゃないかね」 二人の多少知識的な青年が、一間の内に生活していれば、其処に、頭のよさについての競争が行われるのは、至極あたり前のことであった。 松村武と私とは、その日頃、暇にまかせて、よく議論を戦わしたものであった。 夢中になって喋っている内に、いつの間にか夜が明けて了う様なことも珍しくなかった...
(666字。目安の読了時間:2分) 仮令このまま我々が頂戴して置いた所で、誰が疑うものか、我々にしたって、五千円よりは五万円の方が有難いではないか。 それよりも恐しいのは、彼奴、紳士泥坊の復讐である。 こいつが恐しい。 刑期の延びるのを犠牲にしてまで隠して置いたこの金を、横取りされたと知ったら、彼奴、あの悪事にかけては天才といってもよい所の彼奴が、見逃して置こう筈がない――松村は寧ろ泥...
(595字。目安の読了時間:2分) 俺はどこの番頭さんかと思った」 「シッ、シッ、大きな声だなあ」松村は両手で抑えつける様な恰好をして、囁(ささや)く様な小声で、「大変なお土産を持って来たよ」 というのである。 「君はこんなに早く、どっかへ行って来たのかい」 私も、彼の変な挙動につられて、思わず声を低くして聞いた。 すると、松村は、抑えつけても抑えつけても、溢れて来る様な、ニタニ...
(681字。目安の読了時間:2分) 私は、松村のこの不思議な挙動については、読者にはまだ明してない所の、私丈けの深い興味を持っていた。 それ故、彼に十円という、当時の私共に取っては、全財産の半分であったところの大金を与えることに、少しも異議を唱えなかった。 松村は、私から十円札を受取ると、古袷一枚に、皺くちゃのハンチングという扮装で、何も云わずに、プイとどこかへ出て行った。 一人取残...
(638字。目安の読了時間:2分) 彼は、この二枚の紙片れを、熱心に比較研究している様であった。 そして、鉛筆を以て、新聞紙の余白に、何か書いては消し、書いては消していた。 そんなことをしている間に、電燈が点いたり、表通りを豆腐屋のラッパが通過ぎたり、縁日にでも行くらしい人通りが、暫く続いたり、それが途絶えると、支那蕎麦屋の哀れげなチャルメラの音が聞えたりして、いつの間にか夜が更けたので...
(638字。目安の読了時間:2分) そこで、まだ狂気じみた歩行を続けている松村に、飯屋に行かぬかと勧めて見た所が、「済まないが、君一人で行って呉れ」という返事だ。 仕方なく、私はその通りにした。 さて、満腹した私が、飯屋から帰って来ると、なんと珍らしいことには、松村が按摩を呼んで、もませていた。 以前は私共のお馴染であった、若い盲唖学校の生徒が、松村の肩につかまって、しきりと何か、持前...