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俺はどこの番頭さんかと思った」 「シッ、シッ、大きな声だなあ」松村は両手で抑えつける様な恰好をして、囁(ささや)く様な小声で、「大変なお土産を持って来たよ」 というのである。 「君はこんなに早く、どっかへ行って来たのかい」 私も、彼の変な挙動につられて、思わず声を低くして聞いた。 すると、松村は、抑えつけても抑えつけても、溢れて来る様な、ニタニタ笑いを顔一杯に漲(みなぎ)らせながら、彼の口を私の耳の側まで持って来て、前よりは一層低い、あるかなきかの声で、こういったのである。 「この風呂敷包の中には、君、五万円という金が這入っているのだよ」 下 読者も既に想像されたであろう様に、松村武は、問題の紳士泥坊の隠して置いた五万円を、どこからか持って来たのであった。 それは、彼の電気工場へ持参すれば、五千円の懸賞金に与ることの出来る五万円であった。 だが、松村はそうしない積りだと云った。 そして、その理由を次の様に説明した。 彼に云わせると、その金を馬鹿正直に届け出るのは、愚なことであるばかりでなく、同時に、非常に危険なことでもあるというのであった。 其筋の専門の刑事達が、約一箇月もかかって探し廻っても、発見されなかったこの金である。 仮令このまま我々が頂戴して置いた所で、誰が疑うものか、我々にしたって、五千円よりは五万円の方が有難いではないか。
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