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仮令このまま我々が頂戴して置いた所で、誰が疑うものか、我々にしたって、五千円よりは五万円の方が有難いではないか。 それよりも恐しいのは、彼奴、紳士泥坊の復讐である。 こいつが恐しい。 刑期の延びるのを犠牲にしてまで隠して置いたこの金を、横取りされたと知ったら、彼奴、あの悪事にかけては天才といってもよい所の彼奴が、見逃して置こう筈がない――松村は寧ろ泥坊を畏敬している口調であった――このまま黙って居ってさえ危いのに、これを持主に届けて、懸賞金を貰いなどしようものなら、直ぐ松村武の名が新聞に出る。 それは、態々彼奴に敵のありかを教える様なものではないかというのである。 「だが少くとも現在に於(おい)ては、俺は彼奴に打勝ったのだ。エヽ君、あの天才泥坊に打勝ったのだ。この際、五万円も無論有難いが、それよりも、俺はこの勝利の快感でたまらないんだ。俺の頭はいい。少くとも貴公よりはいいということを認めて呉れ。俺をこの大発見に導いて呉れたものは、昨日君が俺の机の上にのせて置いた、煙草のつり銭の二銭銅貨なんだ。あの二銭銅貨の一寸した点について、君が気づかないで、俺が気づいたということはだ。そして、たった一枚の二銭銅貨から、五万円という金を、エ、君、二銭の二百五十万倍である所の五万円という金を探し出したのは、これは何だ。少くとも、君の頭よりは、俺の頭の方が優れているということじゃないかね」 二人の多少知識的な青年が、一間の内に生活していれば、其処に、頭のよさについての競争が行われるのは、至極あたり前のことであった。
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