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そこで、まだ狂気じみた歩行を続けている松村に、飯屋に行かぬかと勧めて見た所が、「済まないが、君一人で行って呉れ」という返事だ。 仕方なく、私はその通りにした。 さて、満腹した私が、飯屋から帰って来ると、なんと珍らしいことには、松村が按摩を呼んで、もませていた。 以前は私共のお馴染であった、若い盲唖学校の生徒が、松村の肩につかまって、しきりと何か、持前のお喋りをやっているのであった。 「君、贅沢だと思っちゃいけない。これには訳があるんだ。マア、暫く黙って見ていて呉れ。その内に分るから」 松村は、私の機先を制して、非難を予防する様に云った。 昨日、質屋の番頭を説きつけて、寧ろ強奪して、やっと手に入れた二十円なにがしの共有財産の寿命が、按摩賃六十銭丈け縮められることは、此際、確かに贅沢に相違なかったからである。 私は、これらの、ただならぬ松村の態度について、ある、言い知れぬ興味を覚えた。 そこで、私は自分の机の前に坐って、古本屋で買って来た講談本か何かを、読耽っている様子をした。 そして、実は松村の挙動をソッと盗み見ていたのである。 按摩が帰って了うと、松村も彼の机の前に坐って、何か紙切れに書いたものを読んでいる様であったが、軈(やが)て彼は懐中から、もう一枚の紙切れを取出して机の上に置いた。 それは、極く薄く、二寸四方程の、小さいもので、細い文字が一面に認めてあった。 彼は、この二枚の紙片れを、熱心に比較研究している様であった。
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