(503字。目安の読了時間:2分) それから数日後のこと、クリストフは自分のまわりに椅子をまるくならべて芝居へいった時のきれぎれな思い出をつなぎあわせて作った音楽劇を演じていた。 まじめくさった様子で、芝居で見た通り、三拍子曲の節にあわせて、テーブルの上にかかっているベートーヴェンの肖像に向かい、ダンスの足どりや敬礼をやっていた。 そして爪先でぐるっとまわって、ふりむくと、半...
(535字。目安の読了時間:2分) ほかの人なら誰だって、まちがえるかも知れなかった。 しかし彼は、はっきりと音色を区別していた。 ある日、彼は祖父の家で、そりくりかえって腹をつき出し、踵(かかと)で調子をとりながら、部屋の中をぐるぐるまわっていた。 自分で作った歌をやってみながら、気持が悪くなるほどいつまでもまわっていた。 祖父はひげをそっていたが、その手をやすめて...
(496字。目安の読了時間:1分) その半ば夢心地の状態にあきてくると、彼は動きまわって音をたてたくてたまらなくなった。 そういう時には、楽曲を作り出して、それをあらん限りの声で歌った。 自分の生活のいろんな場合にあてはまる音楽をそれぞれこしらえていた。 朝、家鴨の子のように盥(たらい)の中をかきまわす時の音楽もあったし、ピアノの前の腰掛に上って、いやな稽古をする時の音楽...
(638字。目安の読了時間:2分) ふるえ、ゆらぎ、はためくすべてのもの、照りわたった夏の日、風の夜、流れる光、星のきらめき、雨風、小鳥の歌、虫の羽音、樹々のそよぎ、好ましい声やいとわしい声、ふだん聞きなれている、炉の音、戸の音、夜の静けさのうちに動脈をふくらます血液の音、ありとあらゆるものが、みな音楽である。 ただそれを聞きさえすればいいのだ。 ありとあらゆるものが奏でるそう...
(489字。目安の読了時間:1分) 彼はいま、スウィスの田舎に静かな生活をしながら、仕事をしつづけています。 そして人間はどういう風に生きてゆくべきかということについて、考えつづけています。 (訳者) クリストフがいる小さな町を、ある晩、流星のように通りすぎていったえらい音楽家は、クリストフの精神にきっぱりした影響を与えた。 幼年時代を通じて、その音楽家の面影は生き...
(481字。目安の読了時間:1分) 前がき 『ジャン・クリストフ』の作者ロマン・ローランは、西暦千八百六十六年フランスに生まれて、現在ではスウィスの山間に住んでいます。 純粋のフランス人の血すじをうけた人で、するどい知力をもっています。 世界中の人々がみなお互に愛しあい、そして力強く生きてゆくこと、それが彼の理想であり、そして彼はいつも平和と自由と民衆との味方であります...
(453字。目安の読了時間:1分) イワンはかれがどのくらい仕事をしたか見に行こうとしました。 ――その時急に地面がぱっとわれて紳士は中へ落っこっちてしまいました。 そしてそのあとにはただ一つの穴が残りました。 イワンは頭をかきました。 「まあ何ていやな奴だろう。また悪魔だ。大きなことばかり言ってやがって、きっとあいつらの親爺に違いない。」 とイワンは言いました。...
(582字。目安の読了時間:2分) 年よった悪魔はまた次の日も一日塔の上に立っていましたが、そろそろ弱って来て、前へつんのめったかと思うと、あかり取りの窓の側の、一本の柱へ頭を打っつけました。 それを人民の一人が見つけて、イワンのおよめさんに知らせました。 するとイワンのおよめさんは、野良に出ているイワンのところへ、かけつけました。 「来てごらんなさい。あの紳士が頭で仕事...
(520字。目安の読了時間:2分) 人民たちは何が何だか、ちっともわかりませんでした。 人民たちは紳士を見、考え、また見ましたが、とうとうおしまいにはめいめいの仕事をするために立ち去りました。 年よった悪魔は塔のてっペンに一日中立っていました。 それから二日目もやはりたてつづけにしゃべりました。 しかしあまり長くそこに立っていたためにすっかりお腹を空してしまいました。...
(508字。目安の読了時間:2分) イワンはびっくりしました。 「じゃ、わしらを教えてくれ。わしらの手が萎えしびれた時に、そのかわりに頭で仕事をするようにね。」 とイワンは言いました。 悪魔は人民たちに教えることを約束しました。 そこでイワンは、あらゆる人たちに頭で働くことを教えることの出来る立派な先生が来たこと、その先生は手よりも頭でやる方がずっと仕事が出来ること...