(264字。目安の読了時間:1分) 大きな国と、それよりはすこし小さな国とが隣り合っていました。 当座、その二つの国の間には、なにごとも起こらず平和でありました。 ここは都から遠い、国境であります。 そこには両方の国から、ただ一人ずつの兵隊が派遣されて、国境を定めた石碑を守っていました。 大きな国の兵士は老人でありました。 そうして、小さな国の兵士は青年でありました。 二人は...
(418字。目安の読了時間:1分) そして、おばあさんは先に立って、戸口から出て裏の花園の方へとまわりました。 少女は黙って、おばあさんの後についてゆきました。 花園には、いろいろの花が、いまを盛りと咲いていました。 昼間は、そこに、ちょうや、みつばちが集まっていて、にぎやかでありましたけれど、いまは、葉蔭で楽しい夢を見ながら休んでいるとみえて、まったく静かでした。 ただ水のように月...
(437字。目安の読了時間:1分) と、おばあさんは、口のうちでいいましたが、目がかすんで、どこから血が出るのかよくわかりませんでした。 「さっきの眼鏡はどこへいった。」と、おばあさんは、たなの上を探しました。 眼鏡は、目ざまし時計のそばにあったので、さっそく、それをかけて、よく少女の傷口を、見てやろうと思いました。 おばあさんは、眼鏡をかけて、この美しい、たびたび自分の家の前を通った...
(452字。目安の読了時間:1分) それでつい、戸をたたく気になったのであります。」と、髪の毛の長い、美しい少女はいいました。 おばあさんは、いい香水の匂いが、少女の体にしみているとみえて、こうして話している間に、ぷんぷんと鼻にくるのを感じました。 「そんなら、おまえは、私を知っているのですか。」と、おばあさんはたずねました。 「私は、この家の前をこれまでたびたび通って、おばあさんが、...
(460字。目安の読了時間:1分) 小さな手でたたくと見えて、トン、トンというかわいらしい音がしていたのであります。 「こんなにおそくなってから……。」と、おばあさんは口のうちでいいながら戸を開けてみました。 するとそこには、十二、三の美しい女の子が目をうるませて立っていました。 「どこの子か知らないが、どうしてこんなにおそくたずねてきました?」と、おばあさんは、いぶかしがりながら問いま...
(424字。目安の読了時間:1分) おばあさんは、眼鏡をかけたり、はずしたりしました。 ちょうど子供のように珍しくて、いろいろにしてみたかったのと、もう一つは、ふだんかけつけないのに、急に眼鏡をかけて、ようすが変わったからでありました。 おばあさんは、かけていた眼鏡を、またはずしました。 それをたなの上の目ざまし時計のそばにのせて、もう時刻もだいぶ遅いから休もうと、仕事を片づけにかかり...
(482字。目安の読了時間:1分) 窓の下の男が立っている足もとの地面には、白や、紅や、青や、いろいろの草花が、月の光を受けてくろずんで咲いて、香っていました。 おばあさんは、この眼鏡をかけてみました。 そして、あちらの目ざまし時計の数字や、暦の字などを読んでみましたが、一字、一字がはっきりとわかるのでした。 それは、ちょうど幾十年前の娘の時分には、おそらく、こんなになんでも、はっき...
(409字。目安の読了時間:1分) いろいろな眼鏡をたくさん持っています。この町へは、はじめてですが、じつに気持ちのいいきれいな町です。今夜は月がいいから、こうして売って歩くのです。」と、その男はいいました。 おばあさんは、目がかすんでよく針のめどに、糸が通らないで困っていたやさきでありましたから、 「私の目に合うような、よく見える眼鏡はありますかい。」と、おばあさんはたずねました。 ...
(440字。目安の読了時間:1分) おばあさんは、いつもに似ず、それをききつけました。 「おばあさん、おばあさん。」と、だれか呼ぶのであります。 おばあさんは、最初は、自分の耳のせいでないかと思いました。 そして、手を動かすのをやめていました。 「おばあさん、窓を開けてください。」と、また、だれかいいました。 おばあさんは、だれが、そういうのだろうと思って、立って、窓の戸を開けま...
(424字。目安の読了時間:1分) 目ざまし時計の音が、カタ、コト、カタ、コトとたなの上で刻んでいる音がするばかりで、あたりはしんと静まっていました。 ときどき町の人通りのたくさんな、にぎやかな巷(ちまた)の方から、なにか物売りの声や、また、汽車のゆく音のような、かすかなとどろきが聞こえてくるばかりであります。 おばあさんは、いま自分はどこにどうしているのすら、思い出せないように、ぼん...