(259字。目安の読了時間:1分) かなたから、おおぜいの人のくるけはいがしました。 見ると、一列の軍隊でありました。 そして馬に乗ってそれを指揮するのは、かの青年でありました。 その軍隊はきわめて静粛で声ひとつたてません。 やがて老人の前を通るときに、青年は黙礼をして、ばらの花をかいだのでありました。 老人は、なにかものをいおうとすると目がさめました。 それはまったく夢であった...
(338字。目安の読了時間:1分) いま戦争は、ずっと遠くでしているので、たとえ耳を澄ましても、空をながめても、鉄砲の音も聞こえなければ、黒い煙の影すら見られなかったのであります。 老人はその日から、青年の身の上を案じていました。 日はこうしてたちました。 ある日のこと、そこを旅人が通りました。 老人は戦争について、どうなったかとたずねました。 すると、旅人は、小さな国が負けて、そ...
(308字。目安の読了時間:1分) これを聞くと、青年は、あきれた顔をして、 「なにをいわれますか。どうして私とあなたとが敵どうしでしょう。私の敵は、ほかになければなりません。戦争はずっと北の方で開かれています。私は、そこへいって戦います。」と、青年はいい残して、去ってしまいました。 国境には、ただ一人老人だけが残されました。 青年のいなくなった日から、老人は、茫然として日を送りまし...
(277字。目安の読了時間:1分) やがて冬が去って、また春となりました。 ちょうどそのころ、この二つの国は、なにかの利益問題から、戦争を始めました。 そうしますと、これまで毎日、仲むつまじく、暮らしていた二人は、敵、味方の間柄になったのです。 それがいかにも、不思議なことに思われました。 「さあ、おまえさんと私は今日から敵どうしになったのだ。私はこんなに老いぼれていても少佐だから、...
(277字。目安の読了時間:1分) やがて冬が去って、また春となりました。 ちょうどそのころ、この二つの国は、なにかの利益問題から、戦争を始めました。 そうしますと、これまで毎日、仲むつまじく、暮らしていた二人は、敵、味方の間柄になったのです。 それがいかにも、不思議なことに思われました。 「さあ、おまえさんと私は今日から敵どうしになったのだ。私はこんなに老いぼれていても少佐だから、...
(284字。目安の読了時間:1分) 白いばらの花からは、よい香りを送ってきました。 冬は、やはりその国にもあったのです。 寒くなると老人は、南の方を恋しがりました。 その方には、せがれや、孫が住んでいました。 「早く、暇をもらって帰りたいものだ。」と、老人はいいました。 「あなたがお帰りになれば、知らぬ人がかわりにくるでしょう。やはりしんせつな、やさしい人ならいいが、敵、味方とい...
(270字。目安の読了時間:1分) 二人とも正直で、しんせつでありました。 二人はいっしょうけんめいで、将棋盤の上で争っても、心は打ち解けていました。 「やあ、これは俺の負けかいな。こう逃げつづけでは苦しくてかなわない。ほんとうの戦争だったら、どんなだかしれん。」と、老人はいって、大きな口を開けて笑いました。 青年は、また勝ちみがあるのでうれしそうな顔つきをして、いっしょうけんめいに目...
(300字。目安の読了時間:1分) 二人は、そこでこんな立ち話をしました。 たがいに、頭を上げて、あたりの景色をながめました。 毎日見ている景色でも、新しい感じを見る度に心に与えるものです。 青年は最初将棋の歩み方を知りませんでした。 けれど老人について、それを教わりましてから、このごろはのどかな昼ごろには、二人は毎日向かい合って将棋を差していました。 初めのうちは、老人のほう...
(268字。目安の読了時間:1分) その快い羽音が、まだ二人の眠っているうちから、夢心地に耳に聞こえました。 「どれ、もう起きようか。あんなにみつばちがきている。」と、二人は申し合わせたように起きました。 そして外へ出ると、はたして、太陽は木のこずえの上に元気よく輝いていました。 二人は、岩間からわき出る清水で口をすすぎ、顔を洗いにまいりますと、顔を合わせました。 「やあ、おはよう。...
(310字。目安の読了時間:1分) そして、まれにしかその辺を旅する人影は見られなかったのです。 初め、たがいに顔を知り合わない間は、二人は敵か味方かというような感じがして、ろくろくものもいいませんでしたけれど、いつしか二人は仲よしになってしまいました。 二人は、ほかに話をする相手もなく退屈であったからであります。 そして、春の日は長く、うららかに、頭の上に照り輝いているからでありまし...