(461字。目安の読了時間:1分) 町も、野も、いたるところ、緑の葉に包まれているころでありました。 おだやかな、月のいい晩のことであります。 静かな町のはずれにおばあさんは住んでいましたが、おばあさんは、ただ一人、窓の下にすわって、針仕事をしていました。 ランプの灯が、あたりを平和に照らしていました。 おばあさんは、もういい年でありましたから、目がかすんで、針のめどによく糸が通...
(338字。目安の読了時間:1分) 伯父様同腹で無きだけを何処までも陳べて、聞かれずば甲斐なしその場で舌かみ切つて死んだなら、命にかへて嘘(うそ)とは思しめすまじ、それほど度胸すわれど奥の間へ行く心は屠処の羊なり。 …………………………………………………… お峯が引出したるは唯二枚、残りは十八あるべき筈を、いかにしけん束のまま見えずとて底をかへして振へども甲斐なし、怪しきは落散し...
(353字。目安の読了時間:1分) 我が罪は覚悟の上なれど物がたき伯父様にまで濡(ぬ)れ衣を着せて、干されぬは貧乏のならひ、かかる事もする物と人の言ひはせぬか、悲しや何としたらよかろ、伯父様に疵(きず)のつかぬやう、我身が頓死する法は無きかと目は御新造が起居にしたがひて、心はかけ硯のもとにさまよひぬ。 大勘定とてこの夜あるほどの金をまとめて封印の事あり、御新造それそれと思ひ出して、懸け硯に...
(344字。目安の読了時間:1分) 持つまじきは放蕩を仕立る継母ぞかし。 塩花こそふらね跡は一まづ掃き出して、若旦那退散のよろこび、金は惜しけれど見る目も憎ければ家に居らぬは上々なり、どうすればあのやうに図太くなられるか、あの子を生んだ母さんの顔が見たい、と御新造例に依つて毒舌をみがきぬ。 お峯はこの出来事も何として耳に入るべき、犯したる罪の恐ろしさに、我れか、人か、先刻の仕業はと今更夢路...
(351字。目安の読了時間:1分) 親兄弟に恥を見するな、貴様にいふとも甲斐は無けれど尋常ならば山村の若旦那とて、入らぬ世間に悪評もうけず、我が代りの年礼に少しの労をも助くる筈を、六十に近き親に泣きを見するは罰あたりで無きか、子供の時には本の少しものぞいた奴、何故これが分りをらぬ、さあ行け、帰れ、何処へでも帰れ、この家に恥は見するなとて父は奥深く這入りて、金は石之助が懐中に入りぬ。 ...
(335字。目安の読了時間:1分) 我れは詮方なけれどお名前に申わけなしなどと、つまりは此金の欲しと聞えぬ。 母は大方かかる事と今朝よりの懸念うたがひなく、幾金とねだるか、ぬるき旦那どのの処置はがゆしと思へど、我れも口にては勝がたき石之助の弁に、お峯を泣かせし今朝とは変りて父が顔色いかにとばかり、折々見やる尻目おそろし、父は静かに金庫の間へ立ちしが頓て五十円束一つ持ち来て、これは貴様に遣るで...
(346字。目安の読了時間:1分) 意見も実は聞あきたり、親類の顔に美くしきも無ければ見たしと思ふ念もなく、裏屋の友達がもとに今宵約束も御座れば、一先お暇として何れ春永に頂戴の数々は願ひまする、折からお目出度矢先、お歳暮には何ほど下さりますかと、朝より寝込みて父の帰りを待ちしは此金なり、子は三界の首械といへど、まこと放蕩を子に持つ親ばかり不幸なるは無し、切られぬ縁の血筋といへば有るほどの悪戯を...
いつもブンゴウメールをご利用ありがとうございます。 今日はクリスマスということで、久々の号外メールです。 クリスマスにちなんだ短編をお送りします。 今月の樋口一葉は特に読みにくい文体なので毎日大変ですよね。。 というわけでお口直しに読みやすい童話をどうぞ。 大正ロマンを代表する画家・竹久夢二の『クリスマスの贈物』です。 竹久夢二(Wikipedia) [https://notsob...
(349字。目安の読了時間:1分) 見し人なしと思へるは愚かや。 …………………………………………………… その日も暮れ近く旦那つりより恵比須がほして帰らるれば、御新造も続いて、安産の喜びに送りの車夫にまで愛想よく、今宵を仕舞へば又見舞ひまする、明日は早くに妹共の誰れなりとも、一人は必らず手伝はすると言ふて下され、さてさて御苦労と蝋燭代などを遣りて、やれ忙がしや誰れぞ暇な身躰を片...
(338字。目安の読了時間:1分) 旦那や御新造に宜くお礼を申て来いと父さんが言ひましたと、子細を知らねば喜び顔つらや、まづまづ待つて下され、少し用もあればと馳(は)せ行きて内外を見廻せば、嬢さまがたは庭に出て追羽子に余念なく、小僧どのはまだお使ひより帰らず、お針は二階にてしかも聾(つんぼ)なれば子細なし、若旦那はと見ればお居間の炬燵に今ぞ夢の真最中、拝みまする神さま仏さま、私は悪人になります...