ブンゴウメール (614字。目安の読了時間:2分) それによだかには、するどい爪もするどいくちばしもありませんでしたから、どんなに弱い鳥でも、よだかをこわがる筈はなかったのです。 それなら、たかという名のついたことは不思議なようですが、これは、一つはよだかのはねが無暗に強くて、風を切って翔けるときなどは、まるで鷹のように見えたことと、も一つはなきごえがするどくて、やはりどこか鷹に似ていた...
ブンゴウメール (640字。目安の読了時間:2分) よだかは、実にみにくい鳥です。 顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。 足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。 ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合でした。 たとえば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっ...
ブンゴウメール (586字。目安の読了時間:2分) 一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」 別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。 「ちやうど一升あります。」 山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。 そこで山ねこは、大きく延びあがつて、めをつぶつて、半分あくびをしながら言ひました。 「よし、はやく馬車のしたくをしろ。」白い大きなき...
ブンゴウメール (640字。目安の読了時間:2分) これほどのひどい裁判を、まるで一分半でかたづけてくださいました。どうかこれからわたしの裁判所の、名誉判事になつてください。これからも、葉書が行つたら、どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします。」 「承知しました。お礼なんかいりませんよ。」 「いゝえ、お礼はどうかとつてください。わたしのじんかくにかゝはりますから。そしてこれ...
ブンゴウメール (602字。目安の読了時間:2分) あたまのとがつたものが……。」がやがやがやがや。 山ねこが叫びました。 「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ。」 別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らし、どんぐりはみんなしづまりました。 山猫が一郎にそつと申しました。 「このとほりです。どうしたらいゝでせう。」 一郎はわらつてこたへました。 「そんなら、...
ブンゴウメール (600字。目安の読了時間:2分) 「さうでないよ。わたしのはうがよほど大きいと、きのふも判事さんがおつしやつたぢやないか。」 「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ。」 「押しつこのえらいひとだよ。押しつこをしてきめるんだよ。」もうみんな、がやがやがやがや言つて、なにがなんだか、まるで蜂の巣をつゝついたやうで、わけがわからなくなりました。 そ...
ブンゴウメール (628字。目安の読了時間:2分) やまねこは巻たばこを投げすてて、大いそぎで馬車別当にいひつけました。 馬車別当もたいへんあわてて、腰から大きな鎌をとりだして、ざつくざつくと、やまねこの前のとこの草を刈りました。 そこへ四方の草のなかから、どんぐりどもが、ぎらぎらひかつて、飛び出して、わあわあわあわあ言ひました。 馬車別当が、こんどは鈴をがらんがらんがらんがらんと振...
ブンゴウメール (632字。目安の読了時間:2分) 「こんにちは、よくいらつしやいました。じつはをとゝひから、めんだうなあらそひがおこつて、ちよつと裁判にこまりましたので、あなたのお考へを、うかがひたいとおもひましたのです。まあ、ゆつくり、おやすみください。ぢき、どんぐりどもがまゐりませう。どうもまい年、この裁判でくるしみます。」山ねこは、ふところから、巻煙草の箱を出して、じぶんが一本くはへ...
ブンゴウメール (647字。目安の読了時間:2分) と言ひますと、男はよろこんで、息をはあはあして、耳のあたりまでまつ赤になり、きもののえりをひろげて、風をからだに入れながら、 「あの字もなかなかうまいか。」ときゝました。 一郎は、おもはず笑ひだしながら、へんじしました。 「うまいですね。五年生だつてあのくらゐには書けないでせう。」 すると男は、急にまたいやな顔をしました。 「五...
ブンゴウメール (665字。目安の読了時間:2分) そこはうつくしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まはりは立派なオリーヴいろのかやの木のもりでかこまれてありました。 その草地のまん中に、せいの低いをかしな形の男が、膝を曲げて手に革鞭をもつて、だまつてこつちをみてゐたのです。 一郎はだんだんそばへ行つて、びつくりして立ちどまつてしまひました。 その男は、片眼で、見えない方の...