ブンゴウメール (602字。目安の読了時間:2分) だが、彼女は職業の場所に出て、好敵手が見つかると、はじめはちょっと呆けたような表情をしたあとから、いくらでも快活に喋舌り出す。 新喜楽のまえの女将の生きていた時分に、この女将と彼女と、もう一人新橋のひさごあたりが一つ席に落合って、雑談でも始めると、この社会人の耳には典型的と思われる、機知と飛躍に富んだ会話が展開された。 相当な年配の...
いつもブンゴウメールをご利用ありがとうございます。 本日システム障害により、9時以前に配信予定だった無料版および有料版のメール配信で遅延が生じておりました。申し訳ありません! 現在システムは復旧しており、本日これ以降に配信されるチャネルは通常どおり配信される予定です。 \========================= せっかくなので本配信に書き忘れた作者の紹介をどうぞ。 ▼作者につ...
ブンゴウメール (539字。目安の読了時間:2分) 平出園子というのが老妓の本名だが、これは歌舞伎俳優の戸籍名のように当人の感じになずまないところがある。 そうかといって職業上の名の小そのとだけでは、だんだん素人の素朴な気持ちに還ろうとしている今日の彼女の気品にそぐわない。 ここではただ何となく老妓といって置く方がよかろうと思う。 人々は真昼の百貨店でよく彼女を見かける。 目...
ブンゴウメール (581字。目安の読了時間:2分) 夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。 もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。 よだかはのぼってのぼって行きました。 寒さにいきはむねに白く凍りました。 空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。 それだのに、ほしの大きさは、さっきと少し...
ブンゴウメール (615字。目安の読了時間:2分) 「北の青いお星さま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」 大熊星はしずかに云いました。 「余計なことを考えるものではない。少し頭をひやして来なさい。そう云うときは、氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、近くに海がなかったら、氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」 よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又、四...
ブンゴウメール (634字。目安の読了時間:2分) 一本の若いすすきの葉から露がしたたったのでした。 もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。 よだかはそらへ飛びあがりました。 今夜も山やけの火はまっかです。 よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。 それからもう一ぺん飛びめぐりました。 そして思い切って西のそらのあの...
ブンゴウメール (600字。目安の読了時間:2分) みじかい夏の夜はもうあけかかっていました。 羊歯の葉は、よあけの霧を吸って、青くつめたくゆれました。 よだかは高くきしきしきしと鳴きました。 そして巣の中をきちんとかたづけ、きれいにからだ中のはねや毛をそろえて、また巣から飛び出しました。 霧がはれて、お日さまが丁度東からのぼりました。 夜だかはぐらぐらするほどまぶしいのをこら...
ブンゴウメール (630字。目安の読了時間:2分) 泣きながらぐるぐるぐるぐる空をめぐったのです。 (ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう虫をたべないで餓えて死のう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。) 山...
ブンゴウメール (598字。目安の読了時間:2分) それにああ、今度は市蔵だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。) あたりは、もううすくらくなっていました。 夜だかは巣から飛び出しました。 雲が意地悪く光って、低くたれています。 夜だかはまるで雲とすれすれになって、音なく空を飛びまわりました。 それからにわかによだかは口を大きくひらいて、はねをまっすぐに張って、...
ブンゴウメール (653字。目安の読了時間:2分) 市蔵というんだ。市蔵とな。いい名だろう。そこで、名前を変えるには、改名の披露というものをしないといけない。いいか。それはな、首へ市蔵と書いたふだをぶらさげて、私は以来市蔵と申しますと、口上を云って、みんなの所をおじぎしてまわるのだ。」 「そんなことはとても出来ません。」 「いいや。出来る。そうしろ。もしあさっての朝までに、お前がそうしな...