ブンゴウメール
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「こんにちは、よくいらつしやいました。じつはをとゝひから、めんだうなあらそひがおこつて、ちよつと裁判にこまりましたので、あなたのお考へを、うかがひたいとおもひましたのです。まあ、ゆつくり、おやすみください。ぢき、どんぐりどもがまゐりませう。どうもまい年、この裁判でくるしみます。」山ねこは、ふところから、巻煙草の箱を出して、じぶんが一本くはへ、
「いかゞですか。」と一郎に出しました。
一郎はびつくりして、
「いゝえ。」と言ひましたら、山ねこはおほやうにわらつて、
「ふゝん、まだお若いから、」と言ひながら、マツチをしゆつと擦つて、わざと顔をしかめて、青いけむりをふうと吐きました。
山ねこの馬車別当は、気を付けの姿勢で、しやんと立つてゐましたが、いかにも、たばこのほしいのをむりにこらへてゐるらしく、なみだをぼろぼろこぼしました。
そのとき、一郎は、足もとでパチパチ塩のはぜるやうな、音をきゝました。
びつくりして屈んで見ますと、草のなかに、あつちにもこつちにも、黄金いろの円いものが、ぴかぴかひかつてゐるのでした。
よくみると、みんなそれは赤いずぼんをはいたどんぐりで、もうその数ときたら、三百でも利かないやうでした。
わあわあわあわあ、みんななにか云つてゐるのです。
「あ、来たな。蟻のやうにやつてくる。おい、さあ、早くベルを鳴らせ。今日はそこが日当りがいゝから、そこのとこの草を刈れ。」やまねこは巻たばこを投げすてて、大いそぎで馬車別当にいひつけました。
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