ブンゴウメール
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一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」
別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。
「ちやうど一升あります。」
山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。
そこで山ねこは、大きく延びあがつて、めをつぶつて、半分あくびをしながら言ひました。
「よし、はやく馬車のしたくをしろ。」白い大きなきのこでこしらへた馬車が、ひつぱりだされました。
そしてなんだかねずみいろの、をかしな形の馬がついてゐます。
「さあ、おうちへお送りいたしませう。」山猫が言ひました。
二人は馬車にのり別当は、どんぐりのますを馬車のなかに入れました。
ひゆう、ぱちつ。
馬車は草地をはなれました。
木や藪がけむりのやうにぐらぐらゆれました。
一郎は黄金のどんぐりを見、やまねこはとぼけたかほつきで、遠くをみてゐました。
馬車が進むにしたがつて、どんぐりはだんだん光がうすくなつて、まもなく馬車がとまつたときは、あたりまへの茶いろのどんぐりに変つてゐました。
そして、山ねこの黄いろな陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなつて、一郎はじぶんのうちの前に、どんぐりを入れたますを持つて立つてゐました。
それからあと、山ねこ拝といふはがきは、もうきませんでした。
やつぱり、出頭すべしと書いてもいゝと言へばよかつたと、一郎はときどき思ふのです。
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