ブンゴウメール公式ブログ

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2020-06-05

機械(5/30)

(908字。目安の読了時間:2分) いままでのこの家の悲劇の大部分も実にこの馬鹿げたことばかりなんだがそれにしてもどうしてこんなにここの主人は金銭を落すのか誰にも分らない。 落してしまったものはいくら叱ったって嚇したって返って来るものでもなし、それだからって汗水たらして皆が働いたものを一人の神経の弛みのために尽く水の泡にされてしまってそのまま泣き寝入に黙っているわけにもいかず、それが一度や二...

2020-06-04

機械(4/30)

(910字。目安の読了時間:2分) …とただ彼をいらいらさせてみるのも彼に人間修養をさせてやるだけだとぐらいに思っておればそれで良ろしい、そう思った私はまるで軽部を眼中におかずにいると、その間に彼の私に対する敵意は急速な調子で進んでいてこの馬鹿がと思っていたのも実は馬鹿なればこそこれは案外馬鹿にはならぬと思わしめるようにまでなって来た。 人間は敵でもないのに人から敵だと思われることはその期間...

2020-06-03

機械(3/30)

(792字。目安の読了時間:2分) ところが私と一緒に働いているここの職人の軽部は私がこの家の仕事の秘密を盗みに這入って来たどこかの間者だと思い込んだのだ。 彼は主人の細君の実家の隣家から来ている男なので何事にでも自由がきくだけにそれだけ主家が第一で、よくある忠実な下僕になりすましてみることが道楽なのだ。 彼は私が棚の毒薬を手に取って眺めているともう眼を光らせて私を見詰めている。 私が暗...

2020-06-02

機械(2/30)

(878字。目安の読了時間:2分) 全く使い道のない人間というものは誰にも出来かねる箇所だけに不思議に使い道のあるもので、このネームプレート製造所でもいろいろな薬品を使用せねばならぬ仕事の中で私の仕事だけは特に劇薬ばかりで満ちていて、わざわざ使い道のない人間を落し込む穴のように出来上っているのである。 この穴へ落ち込むと金属を腐蝕させる塩化鉄で衣類や皮膚がだんだん役に立たなくなり、臭素の刺戟...

2020-06-01

機械(1/30)

(749字。目安の読了時間:2分)  初めの間は私は私の家の主人が狂人ではないのかとときどき思った。 観察しているとまだ三つにもならない彼の子供が彼をいやがるからといって親父をいやがる法があるかといって怒っている。 畳の上をよちよち歩いているその子供がばったり倒れるといきなり自分の細君を殴りつけながらお前が番をしていて子供を倒すということがあるかという。 見ているとまるで喜劇だが本人がそ...

2020-05-31

ジャン・クリストフ(31/31)

(433字。目安の読了時間:1分) 「うまくは書いてあるかも知れないが、何の意味もない。」――彼はいつも、クリストフの家で催おされる小演奏会に出席したがらなかった。 その時の音楽がどんなに立派なものであっても、彼は欠伸をしだし、退屈でぼんやりしてる様子だった。 やがて辛抱出来なくなり、こっそり逃げ出してしまうのだった。 彼はいつもいっていた。 「ねえ、坊や、お前が家の中...

2020-05-30

ジャン・クリストフ(30/31)

(510字。目安の読了時間:2分) ゴットフリートの言葉が胸の奥に刻みこまれていた。 彼は嘘(うそ)をついたのがはずかしかった。  それで、彼はしつっこく怨んではいたものの、作曲をする時には、今ではいつもゴットフリートのことを考えていた。 そしてしばしば、ゴットフリートがどう思うだろうかと考えると、はずかしくなって、書いたものを破いてしまうこともあった。 そういう気持を...

2020-05-29

ジャン・クリストフ(29/31)

(488字。目安の読了時間:1分) なぜそんなものを書いたんだい?」 「知らないよ。」とクリストフは悲しい声でいった。 「ただ美しい曲を作りたかったんだよ。」 「それだ。お前は書くために書いたんだ。偉い音楽家になりたくて、人にほめられたくて、書いたんだ。お前は高慢だった、お前は嘘(うそ)つきだった、それで罰をうけた……そこだ。音楽では、高慢になって嘘(うそ)をつけば、きっと...

2020-05-28

ジャン・クリストフ(28/31)

(469字。目安の読了時間:1分)  彼はおだやかにクリストフを眺め、その不機嫌な顔を見て、微笑んでいった。 「何かほかに作ったのがあるかい? 今のより外のものの方が、おれの気にいるかも知れない。」  クリストフはほかの歌が小父の感じをかえてくれるかも知れないと思って、あるだけ歌った。 ゴットフリートは何ともいわなかった。 彼はおしまいになるのを待っていた。 それか...

2020-05-27

ジャン・クリストフ(27/31)

(504字。目安の読了時間:2分)  ある晩、ゴットフリートがどうしても歌ってくれそうもなかった時、クリストフは自分が作った小曲を一つ彼に聞かしてやろうと思いついた。 それは作るのに大へん骨が折れたし、得意なものであった。 自分がどんなに芸術家であるか見せてやりたかった。 ゴットフリートは静かに耳を傾けた。 それからいった。 「実にまずいね、気の毒だが。」  ク...

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