ブンゴウメール公式ブログ

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2020-06-15

機械(15/30)

(817字。目安の読了時間:2分) しかし、そんなことを口にでも出して饒舌ったら軽部は屋敷をどんな目に逢わすかしれないので暫く黙って彼の様子を見ていることにしていると、屋敷の注意はいつも軽部の槽の揺り方にそそがれているのを私は発見した。 屋敷の仕事は真鍮の地金をカセイソーダの溶液中に入れて軽部のすませて来た塩化鉄の腐蝕薬と一緒にそのとき用いたニスやグリューを洗い落す役目なのだが、軽部の仕事の...

2020-06-14

機械(14/30)

(870字。目安の読了時間:2分) それで私は軽部が私を窓の傍から劇薬の這入っている腐蝕用のバットの傍まで連れていくと、急に軽部の方へ向き返って、君は私をそんなに虐めるのは君の勝手だが私がいままで暗室の中でしていた実験は他人のまだしたことのない実験なので、もし成功すれば主人がどれほど利益を得るかしれないのだ。 君はそれも私にさせないばかりか苦心の末に作ったビスムチルの溶液までこぼしてしまった...

2020-06-13

機械(13/30)

(742字。目安の読了時間:2分) …の顔を磨いてやろうといって横たわっている私の顔をアルミニュームの切片で埋め出し、その上から私の頭を洗うように揺り続けるのだが、街に並んだ家々の戸口に番号をつけて貼りつけられたあの小さなネームプレートの山で磨かれている自分の顔を想像すると、所詮は何が恐ろしいといって暴力ほど恐るべきものはないと思った。 ニュームの角が揺れる度に顔面の皺や窪んだ骨に刺さってち...

2020-06-12

機械(12/30)

(1,017字。目安の読了時間:3分) 暫くして私はそのまま暗室へ這入ると仕かけておいた着色用のビスムチルを沈澱さすため、試験管をとってクロム酸加里を焼き始めたのだが軽部にとってはそれがまたいけなかったのだ。 私が自由に暗室へ這入るということがすでに軽部の怨みを買った原因だったのにさんざん彼を怒らせた揚げ句の果に直ぐまた私が暗室へ這入ったのだから彼の逆上したのももっともなことである。 彼は...

2020-06-11

機械(11/30)

(861字。目安の読了時間:2分) いったい主人の仕事をいつ盗んだか、主人の仕事を手伝うということが主人の仕事を盗むことなら君だって主人の仕事を盗んでいるのではないかといってやると、彼は暫く黙ってぶるぶる唇をふるわせてから急に私にこの家を出ていけと迫り出した。 それで私も出るには出るがもう暫く主人の研究が進んでからでも出ないと主人に対してすまないというと、それなら自分が先きに出るという。 ...

2020-06-10

機械(10/30)

(800字。目安の読了時間:2分) しかし軽部は前まで誰も這入ることを許されなかった暗室の中へ自由に這入り出した私に気がつくと、私を見る顔色までが変って来た。 あんなに早くから一にも主人二にも主人と思って来た軽部にも拘らず新参の私に許されたことが彼に許されないのだからいままでの私への彼の警戒も何の役にも立たなくなったばかりではない、うっかりすると彼の地位さえ私が自由に左右し出すのかもしれぬと...

2020-06-09

機械(9/30)

(750字。目安の読了時間:2分) 奇蹟などというものは向うが奇蹟を行うのではなく自身の醜さが奇蹟を行うのにちがいない。 それからというものは全く私も軽部のように何より主人が第一になり始め、主人を左右している細君の何に彼に反感をさえ感じて来て、どうしてこういう婦人がこの立派な主人を独専して良いものか疑わしくなったばかりではなく出来ることならこの主人から細君を追放してみたく思うことさえときどき...

2020-06-08

機械(8/30)

(786字。目安の読了時間:2分) しかし、私までが主婦や軽部がいまにもしかするとこっそり主人の仕事の秘密を盗み出して売るのではないかと思われて幾分の監視さえする気持ちになったところから見てさえも、主婦や軽部が私を同様に疑う気持ちはそんなに誤魔化していられるものではない。 そこで私もそれらの疑いを抱く視線に見られると不快は不快でも何となく面白くひとつどうすることか図々しくこちらも逆に監視を続...

2020-06-07

機械(7/30)

(864字。目安の読了時間:2分) 私がここの家から放れがたなく感じるのも主人のそのこの上もない善良さからであり、軽部が私の頭の上から金槌を落したりするのも主人のその善良さのためだとすると、善良なんていうことは昔から案外良い働きをして来なかったにちがいない。  さてその日主人と私は地金を買いにいって戻って来るとその途中主人は私に今日はこういう話があったといっていうには自分の家の赤色プレートの...

2020-06-06

機械(6/30)

(812字。目安の読了時間:2分) 家のことを何一つ任かしておけないばかりではない、一人で済ませる用事も二人がかりで出かけたりその一人のいるために周囲の者の労力がどれほど無駄に費されているか分らぬのだが、しかしそれはそうにちがいないとしてもこの主人のいるいないによって得意先のこの家に対する人気の相異は格段の変化を生じて来る。 恐らくここの家は主人のために人から憎まれたことがないにちがいなく主...

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