(406字。目安の読了時間:1分) セリヌンティウスは、縄打たれた。 メロスは、すぐに出発した。 初夏、満天の星である。 メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌(あく)る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。 メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。 よろめいて歩いて...
(373字。目安の読了時間:1分) 「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」 「なに、何をおっしゃる。」 「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」 メロスは口惜しく、地団駄(じだんだ)踏んだ。 ものも言いたくな...
(408字。目安の読了時間:1分) 「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」 ...
(373字。目安の読了時間:1分) わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔(はりつけ)になってから、泣いて詫(わ)びたって聞かぬぞ。」 「ああ、王は悧巧(りこう)だ。自惚(うぬぼ)れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつ...
(379字。目安の読了時間:1分) 「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」 「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁(はんばく)した。 「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」 「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のか...
(422字。目安の読了時間:1分) 御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」 聞いて、メロスは激怒した。 「呆(あき)れた王だ。生かして置けぬ。」 メロスは、単純な男であった。 買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。 たちまち彼は、巡邏(じゅんら)の警吏に捕縛された。 調べられて、メロスの懐中...
(389字。目安の読了時間:1分) メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。 老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。 「王様は、人を殺します。」 「なぜ殺すのだ。」 「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」 「たくさんの人を殺したのか。」 「はい、はじめは王様の妹婿...
(383字。目安の読了時間:1分) セリヌンティウスである。 今は此のシラクスの市で、石工をしている。 その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。 久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。 歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。 ひっそりしている。 もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいば...
(400字。目安の読了時間:1分) メロスは激怒した。 必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。 メロスには政治がわからぬ。 メロスは、村の牧人である。 笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。 けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。 きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此(こ)のシラクスの市にやって...
 ブンゴウメールとは?? ----------- ブンゴウメールとは、青空文庫の作品を...