ブンゴウメール公式ブログ

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2019-11-07

武蔵野(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (695字。目安の読了時間:2分) それは春先する、おもしろそうな、笑うようなさざめきでもなく、夏のゆるやかなそよぎでもなく、永たらしい話し声でもなく、また末の秋のおどおどした、うそさぶそうなお饒舌りでもなかったが、ただようやく聞取れるか聞取れぬほどのしめやかな私語の声であった。そよ吹く風は忍ぶように木末を伝ッた、照ると曇るとで雨にじめつく林の中のようすが間断なく移り変わッた...

2019-11-06

武蔵野(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (680字。目安の読了時間:2分) すなわち木はおもに楢の類いで冬はことごとく落葉し、春は滴るばかりの新緑萌え出ずるその変化が秩父嶺以東十数里の野いっせいに行なわれて、春夏秋冬を通じ霞に雨に月に風に霧に時雨に雪に、緑蔭に紅葉に、さまざまの光景を呈するその妙はちょっと西国地方また東北の者には解しかねるのである。 元来日本人はこれまで楢の類いの落葉林の美をあまり知らなかったよう...

2019-11-05

武蔵野(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (586字。目安の読了時間:2分) しばらくして薄雲かかり日光寒し」 同二十二日――「雪初めて降る」 三十年一月十三日――「夜更けぬ。風死し林黙す。雪しきりに降る。燈をかかげて戸外をうかがう、降雪火影にきらめきて舞う。ああ武蔵野沈黙す。しかも耳を澄ませば遠きかなたの林をわたる風の音す、はたして風声か」 同十四日――「今朝大雪、葡萄棚堕ちぬ。  夜更けぬ。梢をわたる風の...

2019-11-04

武蔵野(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (593字。目安の読了時間:2分) 星光一点、暮色ようやく到り、林影ようやく遠し」 同十八日――「月を蹈んで散歩す、青煙地を這い月光林に砕く」 同十九日――「天晴れ、風清く、露冷やかなり。満目黄葉の中緑樹を雑ゆ。小鳥梢に囀ず。一路人影なし。独り歩み黙思口吟し、足にまかせて近郊をめぐる」 同二十二日――「夜更けぬ、戸外は林をわたる風声ものすごし。滴声しきりなれども雨はすで...

2019-11-03

武蔵野(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (630字。目安の読了時間:2分) 林はまだ夏の緑のそのままでありながら空模様が夏とまったく変わってきて雨雲の南風につれて武蔵野の空低くしきりに雨を送るその晴間には日の光水気を帯びてかなたの林に落ちこなたの杜にかがやく。 自分はしばしば思った、こんな日に武蔵野を大観することができたらいかに美しいことだろうかと。 二日置いて九日の日記にも「風強く秋声野にみつ、浮雲変幻たり」...

2019-11-02

武蔵野(2/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (537字。目安の読了時間:2分)  それで今、すこしく端緒をここに開いて、秋から冬へかけての自分の見て感じたところを書いて自分の望みの一少部分を果したい。 まず自分がかの問に下すべき答は武蔵野の美今も昔に劣らずとの一語である。 昔の武蔵野は実地見てどんなに美であったことやら、それは想像にも及ばんほどであったに相違あるまいが、自分が今見る武蔵野の美しさはかかる誇張的の断案...

2019-11-01

武蔵野(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (576字。目安の読了時間:2分)      一 「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」と自分は文政年間にできた地図で見たことがある。 そしてその地図に入間郡「小手指原久米川は古戦場なり太平記元弘三年五月十一日源平小手指原にて戦うこと一日がうちに三十余たび日暮れは平家三里退きて久米川に陣を取る明れば源氏久米川の陣へ押寄せると載せたるはこのあたりなるべし」と書きこんである...

2019-10-30

おじいさんのランプ(30/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (429字。目安の読了時間:1分) 思いついたら、深くも考えず、ぱっぱっとやってしまったんだ」 「馬鹿しちゃったね」 と東一君は孫だからえんりょなしにいった。 「うん、馬鹿しちゃった。しかしね、東坊――」 とおじいさんは、きせるを膝の上でぎゅッと握りしめていった。 「わしのやり方は少し馬鹿だったが、わしのしょうばいのやめ方は、自分でいうのもなんだが、なかなかりっぱだ...

2019-10-29

おじいさんのランプ(29/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (425字。目安の読了時間:1分) 「そいじゃ、残りの四十七のランプはどうした?」 と東一君はきいた。 「知らん。次の日、旅の人が見つけて持ってったかも知れない」 「そいじゃ、家にはもう一つもランプなしになっちゃった?」 「うん、ひとつもなし。この台ランプだけが残っていた」 とおじいさんは、ひるま東一君が持出したランプを見ていった。 「損しちゃったね。四十七も誰か...

2019-10-28

おじいさんのランプ(28/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (419字。目安の読了時間:1分) 「お前たちの時世はすぎた。世の中は進んだ」 と巳之助はいった。 そしてまた一つ石ころを拾った。 二番目に大きかったランプが、パリーンと鳴って消えた。 「世の中は進んだ。電気の時世になった」  三番目のランプを割ったとき、巳之助はなぜか涙がうかんで来て、もうランプに狙いを定めることができなかった。  こうして巳之助は今までのしょう...

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