ブンゴウメール
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それで今、すこしく端緒をここに開いて、秋から冬へかけての自分の見て感じたところを書いて自分の望みの一少部分を果したい。
まず自分がかの問に下すべき答は武蔵野の美今も昔に劣らずとの一語である。
昔の武蔵野は実地見てどんなに美であったことやら、それは想像にも及ばんほどであったに相違あるまいが、自分が今見る武蔵野の美しさはかかる誇張的の断案を下さしむるほどに自分を動かしているのである。
自分は武蔵野の美といった、美といわんよりむしろ詩趣といいたい、そのほうが適切と思われる。
二
そこで自分は材料不足のところから自分の日記を種にしてみたい。
自分は二十九年の秋の初めから春の初めまで、渋谷村の小さな茅屋に住んでいた。
自分がかの望みを起こしたのもその時のこと、また秋から冬の事のみを今書くというのもそのわけである。
九月七日――「昨日も今日も南風強く吹き雲を送りつ雲を払いつ、雨降りみ降らずみ、日光雲間をもるるとき林影一時に煌めく、――」
これが今の武蔵野の秋の初めである。
林はまだ夏の緑のそのままでありながら空模様が夏とまったく変わってきて雨雲の南風につれて武蔵野の空低くしきりに雨を送るその晴間には日の光水気を帯びてかなたの林に落ちこなたの杜にかがやく。
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