(868字。目安の読了時間:2分) けれども全くなくなると妙な顔に見えるので、この国の人は鼻の下の、昔口のあったところに赤い唇の絵を書いておくのです」 「それじゃ、あなたはどうして口がおありになるのですか」 と姫は尋ねました。 若い人はこう尋ねられると顔を真赤にしましたが、やがて悲しそうにこう答えました。 王子はその大きな眼に涙を一パイ溜めながら、 「この国中の人間が皆口が無い...
(992字。目安の読了時間:2分) そのためにだんだん嘘をまぜて話すようになりまして、とうとう嘘の上手なものがオシャベリの上手ということになりました。そうしてこの国中の人々は毎日毎日嘘のつきくらばかりして、本当のことは一つも云わないようになってしまったのです」 「まあ……それじゃみんな困ったでしょうね」 「エエ、ほんとにみんな困ってしまいました。誰の云うことも本当にされないからです。その中...
(862字。目安の読了時間:2分) オシャベリ姫はそんなことは知りません。 何だか夢のように、自分がだんだん高いところへ昇って行くように思っていましたが、やがて気が付いてみると、自分は一つの小さな鉄の室の中の鉄の床の上に寝かされています。 そうして傍に、だれか一人の男の人が心配そうな顔をして自分を見ています。 空にはいつの間にか真っ黒な雲が出て、風が吹き出していましたが、折から雲の間...
(858字。目安の読了時間:2分) それはみんな短刀で、それがだんだんこちらの方へやって来るようです。 姫は、どうしてもこの鉄の塔の中に逃げこまなければ、ほかにかくれるところが無くなってしまいました。 姫は泣くには泣かれず、逃げるには逃げられません。 前には蜘蛛が待っていますし、うしろからは短刀を持った人が追っかけて来るのです。 姫はもう恐ろしくて悲しくて、ブルブルふるえながら立っ...
(858字。目安の読了時間:2分) それはみんな短刀で、それがだんだんこちらの方へやって来るようです。 姫は、どうしてもこの鉄の塔の中に逃げこまなければ、ほかにかくれるところが無くなってしまいました。 姫は泣くには泣かれず、逃げるには逃げられません。 前には蜘蛛が待っていますし、うしろからは短刀を持った人が追っかけて来るのです。 姫はもう恐ろしくて悲しくて、ブルブルふるえながら立っ...
(861字。目安の読了時間:2分) ああ、あたしはもうお腹の皮が痛くなりそうよ。あんまり可笑しくて可笑しくて……」 と腹を抱えて笑いながらシャベリ続けました。 そうすると、よもや聞えまいと思っていた人々の耳に、オシャベリ姫の言葉がすっかり聞えたらしく、まず一番にお妃はさもさも恥かしそうに涙を流して室を出て行きました。 あとに残った王様は鬼のような恐ろしい顔になって、腰にさしていた短...
(902字。目安の読了時間:2分) そんなら耳もきこえないのだから、何を云ってもわかるまい。一つオシャベリをしてみようかしらん。イヤイヤ、唖で耳がきこえないのなら何を云ってもつまらないから、やっぱり我慢をしていよう」 と思いながら、両手を膝の上に置いてお行儀よく澄ましていました。 その様子を見た王様がお妃様の方を向いて何か手真似をしますと、お妃様はうなずいてオシャベリ姫の肩をたたきまし...
(876字。目安の読了時間:2分) 右へ曲ったり左へ曲ったり、梯子段を登ったり降りたり、いつまでもいつまでも続いています。 そうして連れて行く王様夫婦も、あとから随いて来る大将たちも、やっぱりだまって一口も物を云いません。 姫は又、 「妾をどうなさるのですか」 ときいてみたくなりましたが、やっぱり我慢をしていますと、やがて一つの立派な室に這入りました。 その室もピカピカ光って鉄...
(876字。目安の読了時間:2分) 右へ曲ったり左へ曲ったり、梯子段を登ったり降りたり、いつまでもいつまでも続いています。 そうして連れて行く王様夫婦も、あとから随いて来る大将たちも、やっぱりだまって一口も物を云いません。 姫は又、 「妾をどうなさるのですか」 ときいてみたくなりましたが、やっぱり我慢をしていますと、やがて一つの立派な室に這入りました。 その室もピカピカ光って鉄...
(869字。目安の読了時間:2分) 姫は又ビックリしましたが、それでも命が助かったのでホッと安心をしました。 「まあ、今の人は何て不思議な人でしょう。初めからそう云ってくれれば、こんなにビックリしはしないのに。おしまいまでちっとも口を利かないなんて変な人だこと……」 と独り言を云っているうちに、風船は鉄のお城の中の広いお庭のまん中へフワリと落ちました。 姫はほんとうに安心をして、そ...